ビーチガール
砂浜海岸を一時間は走っただろうか。
サファーの集まっている大きな浜があって、その一角に公園が作られ、コンビニやトイレ、シャワーが揃っている。再度携帯すると、「了解、了解。」
バスタオルを被ったアキが、髪の毛を拭きながらやって来た。
「ここに泊まろうよ。バーベギューの材料を仕込んだから、飲み物を差し入れて。」
コンビニで酒とジュースを買い、ついでに温水シャワーを浴びた。気持ちイイ~お湯が疲れをほぐしてくれる。肉食アキの目が光っている。
「彼ってタイプ、いけるカモよ。」
「まるでネギカモじゃん。今夜食べるんでしょう。」
「ウフフ、だったらサイコ-!」
若者が肉や野菜を焼いていた。バーベギューの煙が胃の腑を刺激する。
「お邪魔しま~す、サキです。よろしく~」
「いらっしゃい。」
イケイケアキが紹介した。
「彼は海君、サーファーよ。まずは乾杯!」
女達はよく飲み、よく食べ、よく喋ったが、彼は黙って焼いていた。焼き上げると手際よく寄せる。サキが尋ねた。
「もしかして、飲食のお仕事?」
「昔、バイトでやってました。」
アキも尋ねた。
「もしかして、スイーツ?」
「そ、そうです。お酒はダメなんです。」
「そうか。」
ジュースを注ぐと美味しそうに飲んだが、話が続かない。もっぱらアキが喋った。
「サーフィン教えてもらったの、筋がイイらしい、でしょ?」
「身体にバネがある、バランスがイイ。」
アキはこれ見よがしに、カモシカ脚を突き出した。
「これで全国大会に出たんだから。」
サキも負けじと起ち上がり、お尻を叩いた。
「ビーチバレーでブイブイいわせたんだから。」
彼はニヤニヤ眺めているだけ。アキが酔っ払ってきた。
「明日、波がたつんでしょ、波に乗って立ってみたいの。よろしくお願いします!」
エッ?サキが怪訝な顔をした。
「ゴメン!サーフィンを教えてもらうの。悪いけど、サキは一人でツーリングしてくれない。フェリーは明日の深夜便でしょ、絶対遅れないから、お願い!」
勝手な行動は今に始まったことでない。旅の途中で男と消えるのはいつものこと!リゾラブが肉食アキのエネルギー。
酔っ払ったアキが暑い!暑い!彼の手を取ると海に向かって走った。引きずられるように走る彼。渚で戯れる二人。風が出て、白波がたち始めた。夜目に波打ち際で戯れる二人が鮮明である。
アキはアルコールが入ると欲望が爆発する。それは誰も止められない。今夜は激しくラブラブだろう。そんな彼らを見たくない。公園に戻ってベンチに寝袋を広げた。雲の動きが激しく、月が見え隠れする。夜空を見ながら野宿するのも悪くない。寝袋に潜り込むとすぐに眠ってしまった。
三
三日目は深紅の朝焼けで、紫色の雲が不気味だった。
生温かい南風が吹いて、白波が牙をむいている。サーファー待望の大波とかで、公園に各地から集まったジープやワゴン車が並んでいた。サキは身支度を済ませると、ワゴン車に近づいた。窓を軽く叩いたが返事がない。「お先に」といって立ち去った。
今日はK市のフェリー乗り場に夜10時までに入ればいい。K市は大きな城下町で、昔ながらの蔵屋敷通りにカフェや雑貨、蔵元やガラス工房が並んでいる。和風女子のサキはそこを観光するつもりであった。
ところが、昼前から空模様が怪しくなってきた。降り出すまでにK市に入りたい。ピッチを上げたが、ポツポツ降り出して、市街地に入ったときは本格的な土砂降り、煙雨で前が見えない。街角を曲がったところでガ~ン!停まっている乗用車に衝突してしまった。
水しぶきをあげて転がる自転車、放りだされるサキ、叩きつける雨。車から降りた男が傘を差し出した。
「大丈夫か?」
ス、スイマセン!必死で謝るサキ。
「こんな所じゃ、話も出来ん。」
自転車を掴むとトランクに放り込んだ。「乗れ!」
ずぶ濡れで後部席に飛び込んだ。黒革シート、フカフカカーペット、木目のハンドル、成金仕様である。
無造作にシルクのマフラーが投げられた。「拭け!」
「あ、ありがとうございます。」
「どうする気だ。」
「ど、どうするって、私が悪いんです。」
「だから・・どうするんだ?」
篠突く雨、衝突事故、気持ちが動転していた。
「な、何でもします。許して下さい。」
思わず口を押さえた。ヤ、ヤバイ!白髪交じりのリーゼント、日焼けした顔、でかい金指輪。頬にうっすら傷がある。もしかしてヤクザ?!
ワ~ッ、どうしよう!頭を抱えた。
スピードを落とした車がビルの中に入っていく。急に雨音が小さくなり、パニックもおさまっていった。冷静に考えれば、命を取られることはない、おカネを要求されるか、身体を求められるかだ。生娘じゃあるまいし、何とかなるだろう。そう思うと落ち着いて、車を降り、エレベーターに乗り、男の後について行った。
オフィスビルらしく、無機的な廊下の両側に、クリエイト、サービス、エイジョンシーなどカタカナ標示が並んでいる。ドアを開けると、広いフロアーに重厚なデスク。大きな黒革ソファ、書棚と長机が置かれている。
ソファに腰を下ろすと、奥の部屋を指さした。
「シャワーを浴びてこい。」
「ハ、ハイ」
シャワーを浴びながら考えた。事務所を持っているから、おカネはあるだろう。すると身体か?白髪交じりの細い目、精悍な顔、ドスの効いた声、全然嫌じゃない。それどころか、愛人にして欲しいくらいだ。一気にテンションが上がり、化粧をすると見違えるような美女に変身した。バスタオルに身を包むとファイト!しかし、処女のように恥ずかしそうに歩み出た。
バスローブに着替えた小父様が目を丸くした。
「キ、キレイだ!まるで別人。す、座れ、怖がらなくてもイイ。」
怖がっていないけど、遠慮がちに腰掛ける。
「身体が温まるぞ、飲むか。」
火照っているけど、しおらしく「ハ、ハイ」。
なみなみと注がれる琥珀色のブランディ、震える手でグイッとあおった。燃える~っ、目元から耳、うなじから胸がピンクに染まる。小父様が目を細めた。
「立ってくれ。」
「ハ、ハイ」
胸に巻いたバスタオルを押さえ、怖ず怖ずと立ち上がる。陶然とした面持ちで見つめる小父様。少年の目のようにキラキラしている。
「見事だ!後姿も見せてくれ。」
ビーチバレーの人気者、ボディを見られるのは慣れている。ゆっくり後ろ向きになった。鋭くなる小父様の眼差し、熱い視線が突き刺さる。
「こっちに来い。」
イヨイヨだ!はやる思いを抑えて近づていった。血走った目で腰をつかんだ。
「身体で払ってもらおう。」
アア、この言葉!心臓が早鐘を打つ!
もうダメ!ナヨナヨとしなだれるサキ。はだけ落ちるバスタオル。火照った裸身を抱き抱える小父様。でも、その後のエッチが凄かったんです。