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ビーチガール

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ビーチガール❤❤

 サキとアキは高校時代バレーボールで全国大会に出場している。
 大学のとき、ビーチガールをしていて声をかけられビーチバレーに出場した。大会コンビでトントン拍子で勝ち上がり、笑顔とスタイルの良さで人気が出て、テレビや雑誌に取り上げられた。炎天下のビーチバレーは消耗が激しく、砂場で足を痛めやすい。数年して、サキが足を捻挫し、アキが疲れたといい引退した。その後、就職してサキはサクリングにはまっている。アキが久しぶりに連絡してきた。
 「今度の3連休さ、どうする?」
 「サイクリングで遠出するつもりよ。」
 「・・連れてってくれない。」
 「連れて行くって?自転車持ってないだろう。金夜発で火朝着でハードだぞ、止しとけ止しとけ。」
 否定されると燃えるタイプである。
 「自転車は何とかするからさ、ハードは平気!バレーボールで鍛えたじゃん。ダメならヒッチハイクすればイイ。」
 来る者は拒まず、去る者は追わず。
 「じゃ、金曜9時M埠頭のフェリー乗り場。来るのなら遅れないで、期待しないで待ってるから。」
 その週の金曜、案の条約束時間に現れず、サキだけフェリーに乗船した。『蛍の光』が流れ、タラップが上がろうとしたときである。
 「待って!」
 猛烈な勢いで一台のバイクが飛び込んで来た。辛うじてセーフ!誰かと思いきや、何とアキ!
 「間に合った!」
 アッケラカンと笑っている。乗っていたのはバイクと思ったが、電動チャリ。
 「これでツーリング?」
 「ママのを借りたの。」
 しかも、服装はビキニにTシャツのビーチガールスタイル。片や、サキはヘルメットにゴーグル、サイクルジャージにパンツの本格スタイル。何ともアンバランスな女二人の4泊3日のツーリングが始まった。
 最終日、二人はトンデモない体験をすることになる。



 早朝、田舎町の波止場に降りると、防風林の続く海岸道路を走った。
 松林の間から海が光る。ドド~ン、打ち寄せる波の地響きが届く。初夏の光りと乾いた空気が心地良い。本格装備のサキは快調に飛ばし、Tシャツのアキはグングン離される。待って~電動に切り替えると一気に加速。アッという間に追いつく。抜かれまいとするサキ。電動チャリに叶わない。バイバイ~アキが追い越していく。
 抜かれ抜かれつ、どれくらい繰り返しただろう。
 最後の急坂を上がったところでアキは待つ。ジグザグ漕ぎでハーハー上がってきた。滝のような汗。
 「ご苦労さん、サキは偉い、優等生!」
 肩で息をしながら睨むサキ。
 急坂を猛スピードで下りると鄙びた漁村で、初日はそこで泊まることになっている。
 日本ほど安全な国はない。公園に簡易テントを張り、コンビニで食料を確保すれば何とかなる。そのうえ温泉があればいうことなし!雑貨屋で聞くと、漁協の裏手に露天風呂があるという。ラッキー!漁協で確かめると、遊歩道を行くと脱衣小屋があって、地元民しか利用しないとのこと。
 小屋を見つけると、服を脱ぎ捨て飛び込んだ。パノラマ状に真っ青な空と海が広がる。思いっ切り身体を伸ばして深呼吸。アスリートのしなやかな裸身に陽が当たり、女の柔らかな陰影が浮かび上がる。サイコ-!湯船に飛び込む二人。
 身体を洗っていたとき、振り向くと二匹の動物が眺めている。ラッコ??
 「よう伸びた身体や~眩しいのう、婆さん。」
 「今の子は栄養がエエからの~」
 よく見ると、好々爺と好々婆。
 「よく来られるんですか?」
 「家はそこやから毎日来とる。男と女の掛け札があるけど使わん、誰が入ってもエエんじゃ。」
 「掛け札、あったかしら?露天風呂ってサイコ-ね、お幾つですか?」
 「八十歳やからの~毎日お日様を拝んどる。もうすぐ海の向こうに還るんじゃ。」
 「天女さんに会った気分じゃ、有難い、有難い。」
 老夫婦は手をあわせた。二人は祖父母を知らない、年寄り孝行などしたことがない。
 そうだ!アキが手を打った。
 「背中洗ってあげる!」
 サキが手を差し伸べた。
 「滑らないでね。」
 「悪いの~洗ってもらおうかい、婆さん。」
 「手が回らんからの~」
 ついでに頭も洗うと、再び手をあわせた。
 「天女さんに洗ろうてもろうた。冥土の土産じゃ、ナンマイダ、ナンマイダ。」
 「身も心も清められた。ナンマイダ、ナンマイダ。」
 小屋を出るとき、爺さんが誘った。
 「泊まっていかんか?野菜と魚がある、なあ、婆さん。}
 「ほんに、うちに来て下され。」
 言葉に甘えて老夫婦の家について行った。海に面した漁師家で小さな畑がある。以前は夫婦で海に出ていたが、今は、爺さんが波止場で釣りを、婆さんが畑で野菜を作っている。毎日温泉に入り、新鮮な自家採れを食べているから、薬いらずのツヤツヤ肌。その夜は地酒と素朴な料理で話が弾み、ほろ酔い気分で泊めてもらった。
 ビーチバレーでナイスボディは観客を楽しませたが、露天風呂で生まれたままのヌードを観てもらうのはまた格別。大自然のなかで一糸まとわず、まるで自然児に還った気分。ヌーディストは全然エッチじゃない!
 「アリガタヤ、アリガタヤ」、老夫婦孝行の一日目でした。



 二日目は半島越えでアップダウンの多いコースであった。
 しばしばサキは立ち往生、自転車を押して上がったが、アキは電動チャリでスイスイ。何度目かの急坂で電動に替えたとき、プス!エンジンがかからない。焦るアキ、ほくそ笑むサキ。
 「電気が無くなったのよ、押して上がるしかないね。」
 エエッ!頭を抱えるアキ。
 「押して上がる?!無理よ、絶対無理!」
 「何いってるの、私と同じじゃん。バレーボールに較べれば楽なもの、アキならやれる!さあ行こう。」
 そのとき、キュキューッ!白いワゴン車が横付けになった。優しそうな若者が降りてきた。
 「どうされたんですか?」
 ロン毛に垂れ目、アキのタイプである。泣き面が輝いた。
 「動かないんです、助けて下さい!」
 慣れた手つきで電気系統をチェックした。
 「バッテリーが上がっている。充電すれば大丈夫、町まで運んであげますよ。乗って乗って。」
 「よかった!助かる~」
 イルカを描いたトランクを開いた。バックヤードはボードやスーツで混雑していたが、天上にボードを移すとスペースが出来た。ヒョイ、電動チャリを放り込み、サキの自転車に手をかけた。慌ててアキが遮った。
 「そ、それはイイです。彼女が乗りますから・・」
 カチン!乗るかどうかをアイツに言われたくない。若者は運転席に戻り、アキがそそくさと追いかけ、ひとり残されるサキ。
 「充電したら、連絡するからね。サイクリング頑張って、バイバイ」
 イケメンに目が無いんだから!しかも、ピンチのときに助っ人が現れる。何て運がいい奴なんだろう。
 町に着いて携帯すると、
 「もう充電終わったの。今サーフィン教えてもらってる、こっちへ来てくれる?」
 「こっちてどこよ?」 
 「町の先にある○○浜。着いたら連絡して、迎えに行くから。」
作品名:ビーチガール 作家名:カンノ