赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 31~35話
特別な道具を使わないというのも、お座敷遊びならではの醍醐味。
座敷のなかにあるものを、巧く活用して遊ぶものがおおい。
座布団を使う「座布団とり」は、その典型例のひとつ。
人数より一枚少ない座布団を、並べておく。
三味線のお姐さんが 『♪ 金毘羅ふねふね 追手に帆かけて
シュラシュシュシュ・・・』と弾きはじめる。
曲がストップした瞬間。どこでもいいから空いている座布団に坐る。
座れなかったひとりが、そこで落ちる。
最後は1対1の対決になる。勝ったほうが晴れて優勝。
座布団を1つあいだに置いて、芸者とお客さまがそれぞれ
後ろ向きになる、というゲームがある。
かかとを座布団につけたまま、うしろむきのまま対峙する。
『♪ 勝ってくるぞと勇ましく・・・』と唄いながら、お尻とお尻を
ぶつけ合う。
『どんじり』と呼ばれる、きわめて単純なゲームだ。
相手のお尻の反動で、飛ばされた人が負けになる。
カカトが片方だけでも座布団についている人が、勝ちとなる。
お座敷ゲームの基本は、日頃のかしこまった生活からの「発散」に
他ならない。
「コイン落し」というゲームは、和紙を使う。
大きめのグラスの縁をお酒で濡らし、用意した和紙を貼る。
余った部分を切り取ると、きれいな蓋ができる。
真ん中に五円玉をおく。
その周りを芸者とお客さんが、順番に、タバコの火を使い燃やしていく。
五円玉をグラスの中に落とした人が負けとなる。
中には、五円玉の穴の中を焼く人もいる。
ゲーム自体はシンプルだが、真剣で、白熱した駆け引きになる。
落とした人が、やはりイッキの酒を飲まされる。
「碁石とりゲーム」というのもある。
白と黒の碁石を、器の中に十個ずつ入れる。
芸者が黒でお客さまを白としたら、それを「ヨーイドン」で、
お箸でつまんで拾いあげる。
早く全部を拾いあげたほうが、当然勝ちになる。
もしもこの世に神様がいて、こうしたお座敷の様子を天から覗いたとすれば、
大の大人が、それもいい年をした男と女が、なんて他愛のない馬鹿げたことを
やっているんだと、嘆くかもしれない。
しかし。花柳界で働いている人々は、口が固いことで有名だ。
よほどのことがないかぎり、情報が外へ流出するおそれはない。
『胸襟を開き、うちとけて、全員が、裸になった気分でとことん遊べる』
それこそがお座敷遊びの持っている、醍醐味だ。
お座敷を盛り上げるのは、芸者が背負ったたいせつな役割のひとつ。
お座敷が盛り上がるかどうかは、ただひたすら、芸者の腕にかかっている。
(34)へ、つづく
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 31~35話 作家名:落合順平