赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 31~35話
宴会はまず、コップにビールを注ぐことからはじまる。
(とりあえず、ビールで乾杯というやつだ)
お料理が到着したら、割り箸を割り、お客様にさし出す。
酒がなくなる前にお酌する。
ビール以外の別のアルコールをすすめる。
さりげない会話を交わしながら、その間、食べ終えたお皿をすぐに片付け、
お膳から下げるようにする。
コップや御猪の口が乾かないよう、いつもなみなみなの状態を
保つよう、配慮しながらお酌していく。
『おい、清子。
これじゃまるで、どうってことない、ただの普通の宴会じゃないか』
『しいっ、。あんたは顔を出さない約束でしょう。
そんなところから、ひょっこり、顔なんか出してどうするの。
見つかったら只じゃすまないのよ、まったくぅ~』
『普通のまんまじゃ、いつまで経っても盛り上がりに欠けるだろう。
だいいち、かごから顔を出さなきゃ、小原庄助の顔が見えないじゃないか。
おっ、あいつか。なんだい、どう見ても、大した男じゃないなぁ。
あんな青白い男が好みなのかよ、小春姐さんは。
まったく小春姉さんも、男の趣味が、どうにも最悪だなぁ』
『大きなお世話です。たま。
いいからお前はかごに隠れて、そこで聞き耳だけを立てていなさい!』
ピシャリとかごの蓋を、清子が閉じてしまう。
『なんだい、ケチ。折角これからというところなのに・・・』
たまが暗闇の中で目を光らせる。
たまがブツブツと愚痴をこぼしはじめたとき、ようやく待ちかねていた
小春の三味線が、お座敷に流れてきた。
「涼しくなったから」という、罰ゲームのついたお座敷遊びの始まりだ。
初めてのお客さんでもわかりやすい、お座敷遊びのひとつ。
受けがよく、とにかく面白いと言われている。
芸者たちがまず見本をみせる。ひとりが女役で、もうひとりが男役。
ふたりともそれぞれ団扇を持って立ち上がる。
次はお客さまに演じてもらうために、客には男役のほうを
じっと観察してもらう。
しかし。予行演習はざっと見せるだけで、かんたんに終わる。
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 31~35話 作家名:落合順平