赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 31~35話
「ほう、なかなか似合うぞ。愛嬌もある。
半玉の市花より、よほど愛想がいいし、見た目もいい。
どうだお前。なにか芸ができるか?」
清子があわてて飛んでくる。
たまを庄助旦那から受け取り、自分の懐へ抱きあげる。
『駄目じゃないの。あれほど出るなと言っておいたのに。まったく、もう
あんたって子は・・・お茶目なんだから・・・』清子がきつい目をして、
たまを睨む。
三味線を止めた小春が苦笑しながら、小さく頭を下げる。
「ウチの猫です。お騒がせしてすんまへん。若旦那さん」
「いやいや、謝る必要はない。三毛のオスとは珍しい。
ところでこいつ。なにやら、芸当でもしそうな顔をしているぞ。
小春。お前、帯の細紐をほどけ。
ほどいたそいつを、そっちからこっちへ、ピンと張ってみな。
市花(清子の半玉名)。そこの棚から、人形の日傘を取ってくれ。
背中に背負わせて三毛に、猫の綱渡りをやらせようじゃないか」
「そらまた、クリーンヒットの名案ですなぁ!」
「庄助さん。あれは狸のやる所業であります。
ど素人の小猫に、いきなり綱渡りをさせるのは、少しばかり、
無理すぎる注文ではありませんか?」
「いやいや。わしにはわかる。こいつの顔には、芸が達者だと書いてある。
日傘は背中にくくりつけてくれ。
手ぬぐいはねずみ小僧のように、しっかり顔に決めてくれ。
頼んだぜ、皆の衆」
とつぜん湧いた大騒ぎの中。たまが全員の手でもみくちゃにされる。
綱渡りに挑戦する子猫に、着々と変身していく。
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 31~35話 作家名:落合順平