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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIGGUN1 ルガーP08 別バージョン

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「ああ、君未成年か」

 店内はさっき言った通り狭い。カウンターの向こうは調理場でエアコンもないので結構暑い。切り盛りしているのは老夫婦だ。じいさんは小柄で細身。ばあさんはその3倍はあろうかという堂々たるお姿だ。
「やあ風見ちゃん、今日は大活躍だね」
 さっきと同じコメントをじいさんがした。
「たった今Dクマで銃撃戦があった。これも君だろ?」
 これには俺も笑うしかない。
「情報速すぎだよ、どういうこと」
「うちの女房は君のファンだからね。情報は逐一集めてるよ」
 いつの間にかカウンターから出て俺の横にいたばあさんが恥ずかしげに笑った。軽く握手してあげたら、うふふと笑って少し女の顔になった。怖い。
「さすが街一番の情報屋だ。で、追加情報が欲しいんだけど…」
「まあまあ」
 じいさんは必要以上に笑顔を見せた。
「ラーメン屋にきてラーメン食べないなんて野暮だよ。ちょうどいい、新作試作メニューが完成したんだ」
「へえ」
 俺は笑った。
「用事を思い出した」
 俺は今入ってきた方にターンしようとした。その肩を俺の太ももほどもある腕が押さえつけてカウンター席に押し込んだ。ばあさんだ……
「何、料金なんて要らないよ」
 払うつもりもないけどね。いや払うから帰して。
「今回はこの街の海のイメージでマリンブルーラーメンだ」
 このじいさん時々こういった新作ラーメンを開発する。しかし常に試作のまま終わるのだ。理由は言うまでもないだろう。
「いや…… 俺昼飯食べたとこだし」
「若いんだからラーメンくらいいくらでも入るでしょ?」
 と、ばあさん水を俺の前にドンと置く。ビールの名前が入った情緒あふれるグラスである。嫌な汗が背中に噴出す。何故にラーメン屋でこんな汗かかなきゃならんのだ。
 ヘルプミー、黒澤さん! 今助けが要るのはその小娘じゃなく僕のほうです。
 外に視線を移すとガラス越しに談笑する4人が見えた。ジュンはやけに積極的に話を盛り上げ、それにおじさん達が楽しそうに応対している。鍵さんたちはともかく黒澤さんのこんなに楽しげな笑い声は初めて聞いた。あの女すでに中年親父を手玉に取る術を身に着けているのか?!
 そこに試作ラーメンがやってきた。その名の通り真っ青なスープ、見たこともないラーメンだった。この街の海はこんなに鮮やかじゃないよ! プランクトンのせいで緑だけど青くはないよ!
「君の知りたい情報はこれでしょ」
 じいさんはカウンターの中からメモをちらつかせた。いや、まあそうだけど。
「食べながら聞いてよ、僕の調べだとね……」
 あの…… 今一番知りたい情報はこのラーメン食べても大丈夫か…… ということなんですけど。 

ACT.2 震える殺し屋


 

 ラーメン屋の魔の手を逃れ、親父達からジュンを回収すると俺は愛車に乗って我が社兼我が家に向かった。
 愛車プジョー106はラーメン屋から100m東のパチンコ屋の向かいにあるコインパーキングに止めておいた。青いソリッドブルーの車体はどこにいても映える。
 106は生産を中止して久しいが、今なお傑作と言われる小型ハッチバック車である。
 4mに満たないピニンファリーナの息がかかる美しいボディーに1600ccツインカムエンジンを搭載している。このエンジンは1トン無い車体を引っ張るに十分な低速トルクを備えながらレッドゾーンである7000回転まで軽やかに吹け上がるスポーティーな心臓だ。速くはないが、運転は痛快の一言。サーキットや峠に持ち込まなくても街中を走っているだけで運転の楽しさを教えてくれる、そんな車だ。
 そいつに乗って東へ少々行き北に曲がってラギエン通りに入ると、この街名物「波乗り踏切」がある。これを越えていくとわが社「BIG−GUN」がある。
「なんで波乗り踏切って言うの?」
「今わかる」
 106は踏み切りに突入した。小さな車体が線路を渡るたび上へ下へと大きく揺れた。
「波に乗っているようになるから波乗り踏み切り」
 本当の名前は以前外人さんの家が横にあったため「外人館踏切」。ここは四つの線路がある大きな踏切でカーブの場所にある。カーブに合わせて線路は傾いているため、そこを横切る道路はどうしてもでこぼこになってしまうのだ。我がマシンはスポーツカーとしては乗り心地がいいのが自慢だが(猫足と言われている)さすがにこの段差は吸収しきれない。
「この車、かわいいけど乗り心地悪いね」
「道路が悪いんだバカモノ」
「音もうるさいし」
 それは俺のせいだ。エアクリーナーを毒キノコに変えている上にオールステンのスポーツマフラー装備だ。んでもって気持ちよく走るためついつい低いギアでぶん回して運転しちゃっている。
「お前も免許取ればこいつの楽しさがわかる」
「ふーん。車は運転したいけどね」
 商店街を抜け住宅地に入ると低いが山が見えてくる。その手前の街道沿いにある3階建てのコンクリート打ちっぱなしのビルが「BIG−GUN」だ。 

 わが社は地下にガレージがある。いつもの場所にスパッと停める。ジムのエルカミーノ(前がセダン後ろがトラックみたいなアメ車だ)と会社所有のランドクルーザーはあったが三郎のV-MAX(こっちはでっかいバイクだ)は無い。出かけてるんだろう。
 車を降りるとジュンはもっともな感想を述べた。
「ちょっと立派なビルじゃない。これ全部あなたの会社なの?」
「便利屋BIG−GUNだ。自社ビルだぜ」
 仕事を始めてすぐ運よくお金持ちの依頼者に出会い譲ってもらった経緯がある。ま、それは今は関係ないことだ。
「ねぇあれは?」
 階段へ向かおうとするとジュンが入り口の脇に置いてあるドラム缶を指差した。実は俺も気がついていたんだが軽やかにスルーしていたのだ。が、気づかれちまったんでは仕方ない。
ドラム缶の横にでっかいゴミの塊があった。ま、正確にはそのように見える人間だが。
「何こそこそしてんだよ、ベン」
 俺は足早にゴミゴン君に近寄った。ジュンに近づかれないためだ。
「かか風見ちゃんが、おお女の子連れてるって聞いて……」
「わざわざ見に来たのか」
「そ、そう」
 つば広の帽子、薄いトレンチコート、TシャツにGパン姿。髪は伸び放題で顔を覆いどんな顔しているかすら見えない。そしてその全てが埃にまみれて独特の悪臭を放っている。
 一目見てルンペンさんだ。
「どなた?」
 ジュンが怪訝そうにこちらを見た。そりゃそうだ。どう見ても怪しい人物だ。
「うちの派遣社員…… というかバイトだ」
 本名不明、年齢不明、住所不定、無職。これがこの男の肩書きだ。何しろ俺達と同年代なのか、ずっと年上なのか、不細工なのか、意外といい男なのか、俺でも知らないほど完璧なルンペンスタイルなのだ。ベンというのはあだ名だ。名前がないと何かと不便なのでそう呼んでいる。
「そうなんだ、私ジュンよろしく」
 ジュンはいつもよりやわらかく笑い軽く会釈した。
「よよよ、よろしく」
 ベンは実にわかりやすく取り乱し、埃まみれでもはっきりわかるほど真っ赤になって後ずさりした。俺はそれに連動して片手でタックル気味にベンを抱え一気に地上に押し出した。
「かかかかわいいな、あの子」
「そうだな」