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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIGGUN1 ルガーP08 別バージョン

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 狭い室内ではMP5より拳銃のほうが取り回しがいい。
 俺はMP5をドアの横に置くとグロックを引き抜きノックした。
「だれだ?!」
 引きつった声が聞こえた。
「便利屋です」
 言うなりドアを開ける。銃弾が通り過ぎていった。ドアを開けただけだ。堂々と入っていくほど馬鹿じゃない。床にへばりつきドアの隅から最低限銃と顔を出してグロックを放つ。机の前にいた中年親父の腕から銃をはじき落とす事など簡単だった。
 ゆっくり立ち上がり室内を確認しながら進入した。ジュンは右の奥にうずくまっていた。気が強いとは言ってもただの女の子だ。恐ろしすぎる体験だろう。
 俺の視線に気がついたのか、コーツはジュンに取り付いて無理やり立ち上がらせると後ろから首を決めやがった。
「近づくと殺す!」
 追い詰められた悪党の台詞である。
「お前に聞いておきたいことがある」
 俺は無視して質問した。
「人格改善セミナーを利用して強盗なんてちゃちな犯罪、当選二桁の国会議員が何でそんな下らん真似をした」
 当選二桁の国会議員。ヤツのアイデンティティそのものの言葉が奴にプライドと理性を少しだけ呼び覚ました。
「下らん? そうさ、下らんさ。下らん奴らを使って下らん悪戯をしてやっただけさ。しかしその結果何が起きるか」
 ちょうどその時市長の街宣カーの声が聞こえてきた。
「鼠算で増える駒を使って自分の手を汚さず街に犯罪を起こし続けることが出来る。町の治安は悪化し当然市長の支持率も悪化する」
 なるほどそうか。
「市長再選の妨害が目的だったのか。しかし何故だ。鳥取市長は確かに無所属だがお前さんの真自党と仲が悪いわけじゃない。犯罪犯してまで止める必要はないだろう」
 さらにいえばこんな田舎町の市長なんかを・・・だ。
 それに対しコーツは下卑た笑いを見せた。
「市長を落選させるのが本当の目的ではないし真自党のためでもない。党本部の奴らに見せ付けてやるための事だ」
「?」
「多少は政治に知識があるなら私の得票数がどれほどの物だかは知っているだろう。過去10回の選挙で常に全国トップクラスだ。どんな逆風が吹く選挙でも落選したことは一度もない。しかし私には大臣の椅子など一度も回ってきたことなどない。何故だかわかるか?!」
「あんたの親父さんが一度離党して政党を立ち上げた事があるからだ」
 ヒガシ・コーツはひいじいさんの代からの大物政治家で、代々与党真自党の議員だった。しかしヒガシの父アンディは権力闘争のためほんの一期だけ離党、独立して政党を立ち上げた。独立と言っても結局連立政権となり、すぐに帰党する事になったのだが真自党本部は許さなかった。党内の重要な役職には就けるものの名誉職であり、首相はおろか大臣の椅子もまわすことはなかった。この飼い殺しは息子の代にまで及び、父の地盤を引き継いだヒガシまで冷や飯を食わされるているのである。
「奴らに教えてやりたかった。自分達の椅子がどんなに脆い地盤の上に立っているのか。数人の下らん奴らをたきつけるだけで自分の地位は崩れてしまうという事を。その手始め、いや実験にはこの街は最適だった。市長の支持率は高く治安も悪くない。それがごく一部の人間の馬鹿騒ぎで崩れ市長の首も飛ぶとなれば、いかに連中が無能であっても気づく。自分が砂上の楼閣の上で王様気取りになっているという事を」
 興奮するコーツと裏腹に俺は冷たく言った。
「そんなガキみたいな計画のために・・・何人死んだ」
 何人泣いた。奴の腕の中のジュンと目が合った。こんな状況でも涙を必死にこらえている。涙は恐怖のためか、それとも。
「殺したのは大半お前さ」
 俺の殺気溢れる声に動じずコーツは言い返した。
「お前がちょっかいを出さなければほとんどの奴は死ななかったし、この娘もこんな目にはあわなかったろう」
 俺は思わず笑ってしまった。確かにその通りだ。さすが大物政治家。口では負けはしない。
「私にも質問がある」
 俺から一本取ったので自信を取り戻したのだろう。国会の質問に立っているときのように胸を張って威厳を誇示しながらしゃべりだした。実際には女の子を人質に取っている外道なんだが。
「何故私の名前は公表しなかった。ローランドのファイルに当然私の名前があったはずだが」
 聞かなくてもいい事を。
「私の名前を見て利用できると思ったか。コールマンのような小物はともかく私なら脅せばいくらでも金が出ると思ったか」
 ふん、俗物はみんな他人も利でのみ動くと思ってやがる。俺は嘲ってやろうかと口を開いたのだが・・・。
「金なら・・・もう・・・もらっている・・・」
 言葉がうまく出せなくなっていた。
「なに?」
 くそ・・・やっぱり、こんな時でも・・・始まるのか。
 俺の弱点、病気、いや良心なのかもしれない。
 またジュンと目を合わせた。エメラルドの瞳が大きく見開かれている。俺の異変に気がついているようだ。
 真実にもすぐ気づくだろう。こいつなら。
「20数年・・・かかって・・・やっと彼氏ができた・・・女がいてな・・・」
「な? なんだ・・・きさま」
 コーツも気がついた。
「俺は・・・そいつを助けに来たんじゃ・・・ない。・・・お前を・・・殺しに・・・来た」

「勝負はあたしの勝ちね」
 唐突な発言に俺はピンと来なかった。俺は話のネタ的にダービーと有馬記念くらいしかギャンブルはやらないし、まして知り合いと賭け事はしない。
「できたわよ、あたし」
 誇らしげに胸を張る。貼らなくても十分目立つ胸だが。
「レアな武器か防具か?」
「彼氏よ彼氏」
「嘘だ」と即座に否定する前に奴は懐のスマホを引き抜いて俺にかざした。世が世なら凄腕のガンマンになれたかもしれない。
 スマホの待機画面は純朴そうな青年だった。少々頼りなさ気に見えるが人懐っこい笑顔が印象的だった。
「免許の手続きに来た時、声をかけられたのよ」
 女はまた胸を張った。そりゃ話しかけるだろうよ、あんた受付嬢だろ。
 その時俺は女の妄想と思ってスルーしていた。
 次に会った時、女は浮き浮き顔で話しかけてきた。
「今度デートなのよ、何かプレゼントしたいんだけど何がいいかな」
 まだ妄想が続いているのかと思い「はちみつでもあげれば」と言ったらボールペンを投げつけられた。暴力警官め。
「そいつは車は持っているのか」
「ちっちゃいけどね」
 ちっちゃい車をばかにするな。俺のもかなり小さい。
「キーホルダーとかどうだ。彼女にもらった物を肌身離さず持ってられるってのは嬉しいもんだぞ」
「いいわねぇ、それ」
 女は「はわぁぁぁ」と妄想の世界に行ってしまったので俺はその隙に逃げた。
 数週間後、女は打って変わってため息をついていた。無視して通り過ぎようとしたが首根っこを掴まれた。
「彼が手も握ってくれないのよ」
 彼氏じゃないんじゃないか? と振り切ろうとしたが涙目で相談に乗れと喚くので付き合ってやった。そういうのは三郎の分野なんだが。
「手を握りたいならアンタから握ればいいじゃないか」
「そんな事して嫌われない?」
 見た事も無いしおらしい表情だった。ふむ・・・本気なのか。
「本当にそいつが好きでの事なら大丈夫だ」