小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

便利屋BIGGUN1 ルガーP08 別バージョン

INDEX|27ページ/28ページ|

次のページ前のページ
 

 数日後にこやかに腕を組んだデート写真を見せ付けられた。
 それから週末の度、ネズミマーク入りのペナントやらタワーの置物だの俺の部屋にいらないものが増えた。デートの土産だそうだ。
 はいはい、もういいよ。楽しくやってくれ。
 また何週間か後、俺はニュースで「彼氏」が殺害された事を知った。
 数日後ある店に呼び出された。彼女が「客」として主人から紹介された。
 俺の顔を見ても女は大して驚きもしなかった。勘定がどこかへ行ってしまったのか。
 「その日」彼はデートに遅れる事を連絡してきたそうだ。
 社長に大事な取引を任された。今日は遅くなると電話して来た。申し訳なさそうだったが期待していると言ってもらったと、彼は興奮気味だった。
 そして取引に出向き彼は帰ってこなかった。
 何者かに銃撃され即死したそうだ。
 警察は通り魔、強盗の線で捜査を続けていたが何故か圧力がかかり進展していない。
 淡々と語る女の表情は凍り付いていた。
 うつろな目つき、青ざめた頬。
この女がそういう表情をするのを見たのは初めてだが、こういう語り方をする「客」はうちでは珍しくない。
「それで俺にどうしろと、慰めて欲しいのか?」
 女は冷たく言った。
「仇をとって」
「ありがちな発言だが仇を討ったところで何もならんぞ。むしろ泥沼にはまるだけだ」
 俺としては友人としての最後の助け舟のつもりだった。だが反応は予想通りだった。
「かまわない。仇をとって・・・」
 女の頬に涙がこぼれた。
 俺の声は、女のそれより冷たかっただろう。
「わかった。百万、払えるか?」

「そんなバカな」
 コーツはわめいた。
「そんなバカな女のちっぽけな恨みで私を殺しにきたのか!」
 俺は笑った。
「・・・そう・・・さ。俺は・・・そういう・・・バカな男さ」
 俺の全身が震えていた。
 いつもそうだった。頭の中は冷静であるのに体だけは「恐怖」で打ち震える。
「仕事」の直前は。
 震えのあまりグロックが手から滑り落ちた。足の長い絨毯の上にゴトリと落ちる。
 コーツはジュンを放り出してグロックに飛びついた。震える足でなんとか銃を蹴り飛ばす。コーツは今度は俺の脚にしがみついてきた。通常ならそんな真似はさせないんだが、震えは俺の自由を大いに奪っていた。バランスを崩して組み伏せられた。奴は俺の胸のナイフに気づいた。奪い取ろうと掴みかかる。
 その時ジュンが動いた。さっき撃ち落としたコーツの銃に取り付き構えた。
 よせ、撃つな。
 俺は右手でコーツの手首を取ると捻りあげた。簡単なサブミッションだがど素人には効果がある。
 コーツは悲鳴を上げて力を弱めた。俺は何とか奴を跳ね飛ばしジュンが撃たない様、奴との間に割って入った。
 震えを止める方法はある。簡単だ。
 俺はガタつく右手をなんとかショルダーホルスターに持っていった。
 そこには俺がもっとも使い込んだ銃がある。
 親父が俺にくれた最初の銃。最初のおもちゃ。
 気合一線、銃を抜く。
 冷たい鋼鉄の感触。慣れ親しんだ重さ。
 細かいチェッカーの入った木製のグリップは手の平に吸い付くようになじむ。
 上部の丸いレバーに指をかけ引っ張る。滑らかにスライドは後退し半分に折れた。この銃の最大の特徴「トグルジョイント」だ。指を離すと尺取虫状に折れていたトグルジョイントは前進し弾倉内の弾丸をくわえ込み薬室に収めてチンっという金属音と共に元の位置に戻った。
 発射準備が整った。世界一優美な人殺しの道具。
 ルガーP08。
 俺がジュンの父親を殺した銃の。
 俺の震えは完全に止まっていた。
「お前の名前を公表しなかったのは「仕事」の邪魔をされたくなかったからだ」
 声も正しく発声できるようになっていた。
「お前まで公開したら警察やらマスコミやらが押しかけて「仕事」どころじゃなくなるからな」
 俺は丸腰で床に腰を落とした中年政治家にスマートな拳銃を突きつけた。
 今度はコーツが恐怖に震える番だった。
「お前は・・・いったい何者なんだ?!」
 俺がなんと答えるかジュンはわかっていただろう。今あいつはどんな顔で俺を見ているんだろう。奴の手の銃は今度は俺に向けられるのかもな。
 まあいいさ。
 俺ははっきりと答えた。
「ただの悪党だ」
 ルガーP08が唸った。弾丸は音速を超えて目標を貫き、トグルジョイントがはじき出した薬きょうは弧を描いて俺の頭上を越え、俺とジュンの間に落ちた。
 
エピローグ

「ねぇねぇ、その後ジュンちゃんとはどうなの?」
暇で巨乳な受付嬢は俺の会社の事務所でゲームしながら気だるそうに話しかけてきた。
「どうも?」
「なにやってんのよー、あんな子なかなかいないわよ? ほい、ペイント」
「確かに・・・。ほい、罠仕掛けた」
 俺も付き合ってゲームしているので人のことは言えない。つまみのみこしやのたこ焼きがほんのりといい香りを漂わせている。
 コールマンは息がありシェリフに逮捕され色々とぶちまけた。俺達の事もある事ない事わめいたようだが我々はガード対象者を救出に行っただけなので特にお咎め無しだ。警察への報告が遅れたのについてはこっぴどく怒鳴られたがガード対象者を誘拐されたとあっては会社の信用問題だったからという事でごまかした。
 巨悪と街の人気者の言う事である。
 どっちを世間が信用するかは言うまでもない。
 市長は再選し人格改善セミナーの規制条例作成に着手した。自分に火の粉が降りかかると本当に政治家とはすばやく動くものだ。恐らく国会も似た法律を作るだろう。
 事情をどこまで知っているのか知らないが鍵さんからお礼の電話もあった。
 コールマンから取引を持ちかけられたジュンの父ローランド氏は裏金作りの為快く受け入れ多数の武器を売り渡したが途中で事の重大さに気づき恐ろしくなり撤退を申し出た。
 コーツは口封じのためローランドの抹殺を指示。用心深かったローランドは取引の現場に社員を派遣した。問答無用で発砲してきたコールマンの部下達により、この憐れな社員は人違いで射殺されてしまった。
 ローランドは奴らの出方を見るためとりあえず社員を送り込んだのか? いや何かあったら身代わりにするつもりだったのは明らかだ。なにしろローランドは自分の帽子とコートをプレゼントし着ていくようにとまで言っていたからだ。
 ローランドは自分が殺されたら秘密を他者が暴露すると例のファイルの存在をほのめかし一時コーツらの攻撃を止めさせた。それでもこのままではいつ殺されるかわかったものではない。そう思ったローランドは取引の再開を申し出またこの街を訪れた。
 そして俺に撃たれた。
 依頼は「彼氏」の仇をとるだった。自らの陰謀、保身のため弱者を手駒にし切り捨てた人間たち。ローランドはまさに仇の一人だった。
 俺達はローランドを殺せばファイルを持った人物は当然コールマン一味に消されたと勘違いしファイルを公開すると踏んでいた。コールマンの陰謀を暴くにはそれが一番手っ取り早いと考えていた。一石二鳥だ。恥ずかしい話、黒幕であるコーツの存在はこの時点では知らなかったのだ。