便利屋BIGGUN1 ルガーP08 別バージョン
用事なんか嘘っぱちでとんずらしやがったんだ。なんてやつだ、ジムは助けて俺は生贄に置いてきやがった。とんでもねーやろうだ。絶交もん、ばーい!
「なんで食べないのよ」
ジュンがにらんだ。えーと。
「いや…… 少し感慨深くてな……」
俺は食事を再開した。今度こそちゃんと。
なめるんじゃねぇ、俺は子供のころから苦痛に耐える訓練も受けている。なんのこれしき。へのつっぱりはいらんですよ。ウェップ。
三郎達はそれから30分ほどで帰ってきた。何をしてきたのか問い詰めても「ちょっとな」しか言わなかった。予想通りの返事である。こいつとはそろそろ決着をつけねばなるまい。確実に勝てそうな事を探さなければ……。
全員がリビングに集まって着席するとジムが口を開いた。
「隠し事をしても仕方ない。実は君の事を調べた」
ジュンは神妙な顔になった。つまり調べられて困る事があったのだ。
「君は親に撃たれる覚えはないと言ったが、今回の事件には何か心当たりがあるんじゃないかな」
ジムの声は穏やかだ。どんな時でも女の子を怖がらせるような人間ではない。ジュンは少し考えた。口を割りそうな雰囲気だ。俺では割らなかったに違いない。
「言わなきゃ駄目かな」
「そうだね」
ジムはジュンの気持ちも考えているようだった。彼もつらいに違いない。大体、問いただすのは俺の仕事であろう。しかし俺が切り出す前に代わってくれたのだ。大人である。
「親の追っ手から君を守るのと銃を撃ってくる奴から守るのでは、いくらボディーガードと言っても勝手が違いすぎる。こいつは言わなかっただろうけど銃撃戦をやったんだ。相手じゃなくこいつが死ぬ可能性もあった。隠し事をしている相手を命がけで守るというのは…… 俺達には難しいよ」
ジムの言葉はとても重いが声は優しかった。それがジュンを納得させたのだろう。ジュンは大きく息を吸ってから静かに語りだした。
「私のパパ、先週この街で殺されてるの。ここに来たのはその場所を見ておきたかったから」
ジュンの父ロード・ローランド氏はコルトのデッド・コピーを製作する中規模拳銃会社の社長だった。コピーとはいえ出来はよく値段も安かったため景気はよかったようだ。
先週仕事でこの町を訪れ銃撃され死亡した。犯人はまだ逮捕されていない。
その犯行の手際のよさ、射撃技術から犯人はこの道のプロ。つまり「殺し屋」であると推測されている。このくらいのことはネットでも調べられた。もちろん事件のこと自体は俺達も知っていた。狭い街だから。
「手がかりは犯人はコートを着て直前まで震えていたこと、凶器は古いドイツの銃だってことだけ」
目撃情報はそれだけらしい。ちょっと探すのは難しいか。
「気持ちはわからないでもないけど、命を狙われてまでお父さんの最後の場所を見に行く必要はないんじゃないかな」
ジムの意見はもっともだった。
「もう場所には行ったのよ。でも」
「何か手がかりでも見つかると?」
「そんなことじゃないわ、パパが最後に仕事に来た街がどんな所か知りたかったの」
ジュンは少しため息をついた。
「なんで殺されなきゃいけなかったか…… 知りたかった」
一瞬沈黙が流れた。
「今知るべきはお父さんが殺された理由じゃなく、君が何故狙われたかだろうな」
はじめて三郎が口を開いた。
「お父さんは社会人でましてや拳銃会社の社長だ。恨まれたり狙われたりする理由はあっても不思議じゃない。だが君が狙われる理由はそんなにはないはずだ。普通に考えれば今回の事件に関係していると見ていいだろう」
む…… 珍しく自主的にいい発言をした。ジュンも真剣なまなざしを向けている。俺も何かリーダー的にいいことを言わなければ。
「お父さんから何か聞いたことはないか」
「聞いた事って何よ」
どうしてこいつは俺にだけつっけんどんな態度なのだろう。くすん。
「お前まで一緒に恨まれているという可能性はどう考えたって低い。まして大勢の人間が襲ってきたことから組織的な犯行だ。となればお父さんの仕事の関係で何か揉め事があったに違いない。で、お前が巻き込まれたということは「よくある話」的にはお前が何かやつらに都合の悪い物か情報を持っているに違いない」
「そんなのもらってないわよ」
こいつ…… 簡単にゼロに戻しやがった。
「気がつかなかっただけじゃないのか。誕生日にもらったぬいぐるみにメモリが隠してあるとか、ペンダントに暗号が隠されているとかよくあるだろ」
ジュンがジト目になった。
「ドラマだとよくあるわね」
一拍置いて付け加える。
「現実だと聞いたことないけどね」
くそ…… なんてかわいくないやつだ。
「何かお父さんの持ち物を持ち出してないか」
三郎が割り込んだ。助け舟というより業を煮やした…… という感じだ。
「んーと」
ジュンはバックの中をごそごそと確認した。
「そういえばI−podを間違って持ってきちゃったな」
「それだ」
全員が声を上げた。
「どう考えてもそれだろ! 5秒考えればわかるじゃねーか!」
温和な俺もさすがに切れた。ジュンは少しは反省するかと思ったがなお引かなかった。
「だって何も入ってないのよ。雑音のデータが少し入ってるだけ」
「それだよ! パソコンのデータだろ、それ!」
「パソコンのデータが雑音なの?」
ジュンがキョトンとした。この辺は女の子だ。機械にはそんなに強くないのだろう。ジムが優しく解説する。
「音声でデータを残すことも出来るんだよ。昔はカセットテープでセーブしてたくらいだからね。しかし今時アナログデータとは」
「へー」
ジムはI−podを預かると事務所のPCで解析しに立ち去った。三郎はコーヒーをジュンにいれると静かに切り出した。
「お父さんが何故殺されたか知りたいと言ったね。本当に知りたい?」
ジュンは勘がいい。三郎が何を言いたいか解ったようだ。
「知らないほうがいいかもしれない…… ってこと?」
三郎はうなずいた。真剣な表情で何気なく長い髪をさらりとはらう。意識してやってないようだが…… やけに決まってやがる。むかつくな。
「君にとってお父さんは優しくていい人だった…… それでいいんじゃないか? あのデータで何がわかるかはまだわからないが…… 人に殺されるっていうのは尋常な事じゃない。このまま、忘れてしまった方がいい気がするよ」
ジュンはさすがに考え込んだ。むむむ、三郎の野郎なにいい人になってやがるんだ。今日一日いい人だったのは俺だぞ。
「パパは…… 正直いい人じゃなかったわ。いつも仕事ばっかりで、人に恨まれることもあったと思うわ」
「だからって娘が父親の汚い部分まで見ることはない」
三郎の声はジムのように暖かくはなかった。突き放すような冷たさが感じられた。こいつは時折こういうところを見せる。特に身内がらみの話になると。やつの生い立ちに関係があるのだろう。
「真実を知るより、パパは本当は優しいいい人だった…… と思い込むほうが残りの人生にとっていいことだと思うがね」
「真実より綺麗な嘘のほうがいい……」
作品名:便利屋BIGGUN1 ルガーP08 別バージョン 作家名:ろーたす・るとす



