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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIGGUN1 ルガーP08 別バージョン

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「ありません」
「どうだろう、とりあえず家に帰ってみるというのは。Dクマの一件はやっぱり銀行強盗の繋がりで君の家とは関係ないと思うんだ。うちに帰って確認してみてはどうかな」
 ジムの声は優しく諭すようだった。しかしジュンの顔は初めて見る表情だった。
 暗い。暗かった。そして今までと一番違うのは、返事が無かったことだ。
「電話だけでもどう?」
 また無言だ。困っているようにも見える。ふむふむ。
「まぁ、いいんじゃないか?」
 俺が助け舟を出した。
「せっかく家出なんてしてきたわけだし。しばらく自由な世界にいたって」
 ジムもそれ以上は続けず、それもそうかと言ってくれた。大人だ。
「夕食の準備でもしようか。お客さんだしピザでも取るか?」
 ジムが席を立つとジュンも表情がパッと明るくなり立ち上がった。
「あ、私何か作る。キッチンあるんでしょ」
 食堂の隣には割りとでかいキッチンがある。業務用の流しやレンジも備わっている。もともと大勢が食事するように作られているのだ。
 それにしてもジュンの手料理。女の子の手料理。
すこし心躍る。
ジュンはジムとともにキッチンに入っていった。あそこに女の子が入ったのは初めてだろう。ありがたやありがたや。
そこに聞きなれた爆音が聞こえた。ガレージの監視カメラに一台のバイクが入ってくるのが映った。もう一人の仲間、北下三郎だ。インターフォンを使い来客を告げると三郎はカメラに軽く頷いた。
 ほどなく三郎はヘルメット片手に階段を上がってきた。黒くやや長い髪、とがった輪郭に鋭い瞳と口元が収まっている。背は俺より少々高く170中頃くらいか、スマートで足が長い。ちょっと東洋人離れしたルックスとスタイルの持ち主だ。
「今日は大騒ぎだったらしいな」
 嫌味ったらしくハンサムは口を開いた。
「活躍と言ってくれ。後半は仕事だし」
「こんな時なんだ、あまり目立つことはしないほうがいいんじゃないか」
 あいかわらず無感情で冷たい声だ。
「へいへい、気にはかけとくよ」
 三郎は気にいらなそうに口を歪めた。
「で、ご自慢のガールフレンドは?」
「キッチンだ。夕飯を作ってくれている」
「何自慢気に言ってる。お前だけに作ってくれてるわけじゃあるまい」
 三郎は挨拶するつもりかキッチンに足を向けた。俺も続く。
金髪娘は長い髪をリボンで束ねエプロン姿でキッチンに立っていた。
い、いいじゃん。
 髪がアップされたおかげで後ろからのプロポーションがはっきり見える。細い肩からなめらかにしまっていくライン。そこから意外なほど丸くなった……
「何見てんのよ」
 ジュンが振り返って睨んだ。
「おしり」
 正直さに世界選手権があれば俺は表彰台に上れる事だろう。
 フライパンが飛んできた。今までと違って真っ赤な顔している。すまん、今のはちといやらしすぎた。
 あっちいってなさいよと、きつい声で告げるとジュンは調理に戻った。もっとなんか言うかと思ったが意外とあっさりしていた。三郎が隣にいたのだがそれも気がつかなかった。
 やつなりに料理に集中しているのだろう。
料理と言ってもたいした食材があるわけではない。チャーハンとスープ程度の料理らしいが包丁捌き、調味料の使い方など見ていると中々の腕と見た。さすがに自ら作ると言い出しただけのことはある。
俺、昼もチャーハンだったのこいつも知っているはずだが大目に見てやろう。
三郎も感心しているのかしばらく声をかけずに見守っていた。
ジュンの方が三郎の帰宅に気づいて笑顔で振り返った。
「北下三郎さんですね。初めましてセーノ・ジュンです。噂どおりハンサムさんですね」
 こいつ…… 俺に対するのと声の質が違う。
 その言葉になんと三郎が照れたように笑った。こんな笑い方は絶対にしない男と思っていた。こいつの笑顔は女口説くための作り笑いだけかと。
「そうです、よろしく」
「簡単なチャーハンですけど、すぐできますから待っててね」
 すると三郎は苦笑いした。
「すまないが、すぐにまた出かけなきゃならないんだ。1時間ほどで戻るけどね。ちょっとジムの手も借りたいんだ」
「俺も?」
「ああ、たいしたことじゃないが急ぐんだ。すぐに来てくれ」
 ジムは少し困惑したようだったがジュンにごめんねと告げるとキッチンを出た。
 三郎は「こいつ3人前は食うから」と俺を指差すとまたガレージに戻っていった。
 なんなんだ、こいつは。む、それとも俺とジュンが二人きりになれるように気を使ってくれたのか。いらん気を使いおって、ありがとう友よ。
 残されたジュンはじとっと俺を見た。こいつ俺を見るときはいつもこんな目だな。
「二人になったからって妙な真似しないでよ?」
 するかっ。それは俺のポリシーに大きく反する。いや、だが、しかし。
「あほな事言ってないで、はよ飯にしてくれ。腹減った」
「ふむ…… そうね」
 ジュンは元の位置に戻ると仕上げにかかった。
 小さな体が大きな中華鍋をふるってぴょこぴょこと働く。
 うーむ、うまそ。
 ああいや、チャーハンがですよ。
 そして食卓に料理が並べられた。食べる人数が減ったので、本当に俺の皿には3人前近いチャーハンが乗せられていた。ふん、なんのこれしき。食べて見せようじゃないか。
 刻まれた具、米の炒め具合、横に置かれた中華スープ。見た目、香りとも完璧だった。料理までできるとはなんとハイスペックな娘よ。
 俺はいただきまーす、と礼儀正しく宣言するとスプーンで大盛にすくうと一気に口へかっ込んだ。
「!?」
 な、なにぃ。
「おいしい?」
 ジュンは笑顔だが、やや本気で感想を求めているような覗き込むような表情をした。
 いや、それがその。
 全身がチャーハンを拒否していた。食べてはいけないと全細胞が絶叫を上げ吐き出させようとした。俺は全力でこらえ…… むせてごまかした。
「なによう、下品ね」
 いや…… だって。
「がっついて食べるからよ」
 お母さんがやんちゃな息子をしかるように言い、ジュンは自らが製作したチャーハンを上品に口に運んだ。いや、待て。そしてジュンはしばし後こう言った。
「うん、おいしい」
 な、なんだと?!
 俺は再度チャーハンを口に運んだ。脂汗が出る。甘いというか辛いというかどっちでもないというか…… 経験した事のない味覚。ようするにこれは……
 まずい!
 おいしくない、食えん! な、なんだ、何が起きた。これは確かに奴が作り奴が盛った物だ。奴の皿に乗っているものも全く同じもの。味が違うはずはない。なのに何故やつはうまくて俺は食えないのだ。
 早安のコーヒーに始まってマリンブルーラーメン、そしてこのチャーハン。今日は食の厄日か。
 ジュンはそんな俺に気づかずにこやかに食事を続けていた。
 これが奴の捨て身の嫌がらせでないとすると原因は一つ。俺はまずいと感じるが奴はそう感じないという事だ。
 わかりやすくいうと味覚障害! それしかないだろう。なんて迷惑な奴だ!! 見たところやつはそれを自覚していないのだろう。
 ああっ!
 もうひとつ俺は気がついた。
 三郎の野郎、ジュンの料理見ていてこれに気づきやがったな!