④銀の女王と金の太陽、星の空
「では太陽、報告を。」
私が言うと、太陽が椅子から立ち上がる。
「皆も知っている通り、夜明け前に出発した我々は、夜明けの時には南の国境へついていた。
村に入ると、星一族の男が3人現れた。
空へ何かを見せて報告しだしたので、その間に僕は村の被害の程度を確認しに離れた。
けれど、壊滅状態と聞いていた村は焼かれた痕跡もなく、いたって普通だった。
なにかがおかしいと思って空をふりかえった時、空が馬から落ちるのが見えた。
その様子は目を見開いて、体が硬直していた。
それに動揺したまわりの騎士たちは、抵抗する間もなく、星一族の男たちに殺害された。」
太陽の報告は、その様子を鮮明に想像してしまえるくらい生々しかった。
私は歯をくいしばって、なんとか自分を必死に律した。
「なんとか空だけでも奪還しようと思ったけれど、僕達も村にいた星一族にいつの間にかまわりを取り囲まれていて、結局は撤退するだけで精一杯で…城まで帰ってこれたのは僕を含めて5人だけだった。」
私は玉座の肘おきを握りしめると、声が震えないように腹に力を入れる。
「星一族の裏切りの動機は?」
太陽は、一枚の紙を取り出すと、私の方へ歩み寄ってきた。
「いつのまにか、これを腰に差し込まれていた。治療の時に気がついたんだけど。」
私は受け取ると、目を通す。
『頭領空は我々の秘密を国へ売った。我々の切り札を暴露した裏切り者は処刑する。』
(これは、涼の件を暴露した時の契約書のこと?…いや、あれは前頭領の影武者のしたことだから、暴露したとしても今の一族にとっては切り札でも秘密でもない。となると、暗殺に使われていた毒薬のこと?)
あれは、確かに星一族の秘密であり切り札だったかもしれない。
無色透明で無味無臭の毒薬は、非常に希少価値が高い。
でも、それを暴露したからというだけで、頭領でも容易く裏切られ罠にかけられて命を狙われる…それが忍の世界なのか…。
私はその紙を太陽へ返すと、大臣たちへまわすように指示をした。
「結局、空の生死は定かではない。そして星一族の目的はまだ明確にわからない。ただ、星一族は私たちが空を奪還しに来るのを待っているのは間違いないと思う。だから、私たちはその裏をかかないといけないということ。あと、相手は忍。どこにでも潜んでこちらの情報を得ることができる。だから、これからは軍議にはドールを使う。」
一気に言うと、大臣たちは大きく目を見開いた。
ドールとは我が国の古い軍用の暗号で、帝王学を学んだ王族以外ではごく少数の者しかわからないものだった。
なので、暗にこれからの作戦は、王族のみで進めていくと宣言したも同然だったのだ。
「ドールがわからない者は、軍議に参加できない。また、情報の共有もしない。解る者だけで、今後は空の奪還作戦を展開する。以上。」
有無を言わさず、私は一方的に軍議を切り上げた。
そして、そのまま玉座を立つと私室へ戻った。
正直、太陽の報告でもう平常心を保てなかったのだ。
『聖華は、女王様でしょ。』
空の声が聞こえる。
「ごめん…空。」
私は私室へ入ると、驚く女官達の前を横切り、そのまま寝室へ飛び込んだ。
そしていつも空が眠っていたベッドの左側に座ると、枕を抱きしめる。
とたんに涙と嗚咽が溢れた。
『俺がいる時は一人の女でいい』
「空!ずっと女王でいられないよ!」
声が外へ漏れないように、枕に顔を押し付ける。
呼吸をするたびに、微かに空の汗の香りがした。
夜、何度も愛されたベッドのシーツは交換され、もう空の痕跡は残っていない。
唯一、この枕だけが空を感じられる物だった。
クローゼットにある空の忍の頃の装束も、騎士の制服の予備も、全て綺麗に洗われているので、香りを感じることはできない。
この枕だけは、このままにしておいてもらおうと思った。
「そうだ…マスク!」
私は空に渡したアルミ製の王家の紋章入りのマスクを、首がつけていなかったことに気づいた。
あれは空に合わせて作った物だから、例え顔を潰したとしても本当に空ならつけているはず。
『私情を捨ててよーく考えてみな。』
(そうだ、空!)
なぜ、気づかなかったのか…ひとつ気づくと次々と矛盾に気づく。
顔を潰さないといけなかった理由…それはあれほど整った顔は他にいないから。
首だけ送ってたのは、体にある空の証拠…左肩の傷痕を作れなかったから。
あの首は、空じゃない。
空じゃないということは、空は生きている!
ではなぜ、空を殺したことにしないといけなかったのか。
星一族の狙いは、目的はなんなのか…。
空が、星一族にとって必要だったから。
空にしかできないことが、あったから。
それは…色術?
色術で何をしようとしているの?
そもそも、空に言うことを聞かせられる人はいるの?
空に言うことを聞かせるには…空が大事なものを使えば…
空が大事にしているもの…
(…私?)
自惚れかもしれないけれど、正直他に思い当たらなかった。
空に言うことを聞かせるためには、私を人質にとる必要がある。
私を誘拐すれば…。
いや、でも城内では太陽がいるし、城から私をさらうのは、さすがに手練れの忍でも容易でないはず。
となると、おびきださないといけない。
おびきだすには、軍を率いて城から出るように仕向けること…?
空がいれば、たとえ軍を率いてきてもこちらが強攻手段をとれないことを計算して…。
そして私を人質にとって、空に色術を使う任務をさせる?
そこまでしてさせたい任務って、なんだろう?
さすがにそこまではわからない。
けれど、なんとなく星一族の目的がわかった気がした。
となると、その裏をかけばいいだけ。
私は立ち上がると寝室を出て、女官に将軍と銀河と太陽を呼ぶように言いつけた。
作品名:④銀の女王と金の太陽、星の空 作家名:しずか