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④銀の女王と金の太陽、星の空

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第十五章 空の死


「とりあえず…空の奪還を急ぐべきだろう。」

皆がいなくなった広間に、銀河の声が響く。

「油断したとはいえ、あの空が捕えられるくらいだから、慎重に作戦を立てないといかん。」

将軍が顎に手を当てながら、私たちを見回す。

「空様が捕えられ、太陽様達が命からがら帰城された状況を、まずは詳しく聞くべきですね。」

近衛隊長の言葉に、一同が頷く。

その時、侍従が転がるように広間へ駆け込んできた。

「将軍様!こ…このようなものがっ!」

手には大きめの陶器でできた円筒型の入れ物を持っている。

銀河がそれを受け取り、顔をこわばらる。

「父上…。」

将軍も近衛隊長も顔面蒼白で、3人で肩をくっつけるように集まる。

そして私から距離をとって、蓋をそっと開けた。

「ぐっ!!」

瞬間、銀河が口をおさえ、入れ物を落とす。

陶器でできていた入れ物は音を立てて割れ、赤い液体が飛び散る中、ごろっと何かが転がり出てきた。

「なに?」

私が近づこうとすると、将軍と近衛隊長が慌ててそれを隠そうとする。

部屋中に鉄の臭いが広がる。

「女王様がご覧になるものでは…。」

その様子に、本能が騒いだ。

(まさか、空?)

私は3人が止めるのを押し退けて、落ちたものを見る。

それは…顔を判別できないほど潰された、黒髪の人の首だった。

「!!」

私は思わず目をそらした。

心臓が胸を突き破るか、喉から飛び出すのではないかと思うくらい、息苦しいほどに激しく鼓動する。

(本当に、空なの?)

全身が震えて、気分が悪くなる。

その時、体の芯に空の余韻を感じた。

『俺がいない時は、一国の王でいてよ。』

空の声が聞こえる。

(空…。)

私は拳をぐっと握りしめると、深呼吸をして動揺を心の奥底に押し込んだ。

(私は、確かめないといけない。一国の王として、冷静に、真実を見極めなければ。)

私はその場にしゃがみこむと、もう一度、その首を見る。

空は、王族に認められてから髪を黒く染めることをやめていた。

だから根本から5cmほどは黒混じりの銀髪だった。

首の髪を、間近で確認する。

すると、根本が銀髪だった。

私はその髪を一本、抜き取る。

自然光に透かしてみるけれど、よくわからない。

とりあえずその髪をつまんだまま、次に、左耳のピアスを確認する。

私が愛しくて、いつも食んでいた左耳朶…。

そこには…黒水晶のピアスがついていた。

けれど、ピアスホールが少し大きい気がするのと、ホールの位置が若干違うように感じた。

そっと耳朶に触れてみる。

さすがに食んで確かめることはできないけれど、耳朶の厚さや柔らかさを確かめたかった。

(もう少し、ふっくらしていて弾力があったと思う…。)

昨夜の感覚を思い出してみるけれど、確信は持てなかった。

私は耳朶からピアスを外すと立ち上がり、抜き取った髪の毛を銀河に渡した。

「空のものか、確認して。」

銀河は、青ざめた顔でそれを受け取る。

でも、指が震えていて取り落としてしまった。

「あっ、す…すまない。」

その様子を見ていた近衛隊長が、首に近づき、もう一本髪を抜き取る。

「私が確認致します。」

私はこくりと頷いた。

そんな私をジッと見ていた将軍は、銀河に耳打ちする。

銀河は、そのまま部屋を出ていった。

私はその場にいる、将軍と近衛隊長、各隊長と首を持ってきた侍従を見渡して口を開いた。

「この首が、本当に空のものかどうか確認してから、次のことは決めましょう。まずは冷静さを欠かないこと…私情に振り回されないこと。」

最後は自分へ言い聞かせていたかもしれない。

その場にいた全員が、大きく頷く。

そこへ、銀河が大きな入れ物を持って戻ってきた。

将軍がその入れ物を床に置いて、そっと首を納める。

「掃除を。」

私が言うと、呆然とその様子を眺めていた隊長達が慌てて掃除道具を取りに行った。

「女王様。」

近衛隊長が顕微鏡から顔を上げて、私を呼ぶ。

「判断が難しいですね。」

私も顕微鏡を覗いてみた。

確かに境界線はハッキリしているけれど、これが地毛なのかわからない。

私は再び、将軍が納めた首を確認しに行った。

蓋を開けると、生臭い鉄の香りが沸き上がる。

慣れない銀河は、やはり口をおさえて顔をそらした。

私は髪の毛にそっと触れてみる。

そして根本をかきまぜた。

「うーん。」

黒い髪の毛がところどころ混じってはいるけれど、これは染めムラなのか、地毛なのか…判断がつかない。

『判断が悪いな、女王サマ。』

空の悪戯っぽい笑顔が蘇る。

『私情を捨てて、よーく考えてみな。』

顔は完全に潰されているので、睫毛の色を見ることはできない。

耳朶に関しても、ふくらみと弾力が足りなく感じるのは、死んでいるからかもしれない。

髪の毛に触れた感じが違うように感じるのも…死んでいるからかもしれない。

(死んで…。)

ふっと意識が飛びそうになった。

その時、広間の扉が開くと同時に光輝くプラチナブロンドが入ってきた。

「遅くなって、ごめん!」

その澄んだ声で、一気に広間が明るくなり、血の臭いでよどんでいた空気が浄化される。

「太陽。」

私が呟くように言うと、傷だらけの顔で太陽が微笑んだ。

「なに、それ。」

言いながら近づいてくる。

そして私の手元を覗きこんだ瞬間、太陽は笑顔のまま蓋を閉じた。

「あとは、僕に任せて。」

その言葉に、私は首を左右にふった。

「私がこの国の女王よ。私が全て見極め、判断するわ。」

その私の言葉に、太陽が驚いた表情を見せる。

そして、私の頭をぽんぽんと軽くたたいた。

「ごめん、そうだよな。」

私は微笑んで頷くと、銀河を呼んだ。

「銀河。太陽が来たので、皆を集めて。」

銀河は相変わらず蒼白な顔で頷くと、部屋を足早に出て行った。

「太陽、怪我の具合は?」

私がそっと耳元で訊ねると、太陽は苦笑いを浮かべる。

「正直、今すぐ軍を率いて空を奪還しに行くのは難しいな。」

「前線は近衛隊長に任せて、後方支援も難しい?」

私が訊ねると、太陽はその瞳に力をこめる。

「騎士のプライドに懸けて、それはさせてもらう。」

きっと、普通の人なら歩くこともできない程度の怪我を負っているだろうことは、本当はわかっている。

けれど、空がいない今、太陽を欠いての出征は士気にも関わるし、太陽ほど軍をまとめられる人物がいないのが現実だった。

私は心の中で太陽に謝りながら、玉座に座った。

そしておもむろに自分の左耳のピアスを外すと、空の黒水晶のピアスをつける。

その様子を、太陽がジッと見つめているのが目の端にうつった。

太陽が何か言いたげに席を立ったその時、大臣たちが広間へ入ってきて、太陽に笑顔で声をかける。

そのおかげで、ピアスについて追究されずに済んだ。


「太陽の報告の前に、これについて説明を。」

私が先程の首のことを説明するように促すと、銀河が震える声で皆に報告した。

大臣たちはひとりひとり、私のところまで来て首を確認すると、顔を蒼白にして無言のまま席へ戻った。