小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅷ

INDEX|27ページ/34ページ|

次のページ前のページ
 


「学部の新卒で留学経験もないのに、いきなり直轄チームに入って幹部並みの調整業務だなんて、普通ないでしょ」
 不躾な言葉が矢継ぎ早に問い詰めてくる。美紗の経歴を承知しているあたり、八嶋はいろいろと嗅ぎ回っていたのかもしれない。
「あの人事、日垣1佐のトップダウンで決まったって聞いたけど、元から近しい仲の人を連れてきたってトコなのかな」
 統合情報局の最終的な人事権を握る日垣が、別部署にいた鈴置美紗を引き抜く形で異動させたのは、否定しようのない事実だった。しかし、それより過去に、二人の間に接点など全くない。そう言おうとした美紗は、八嶋の顔が憎悪に歪むのを見た。
「どうやって日垣1佐の『お気に入り』になったの? 私のほうが、……先だったのに」
 怒鳴りつけたいのを我慢しているような気配。続きの言葉を聞くのが恐ろしくて、美紗は思わず半歩後ずさった。
「あの……、私、そろそろ戻らないと……」
「日垣1佐とは、どういう関係?」
「そんなの、何も……」
 週末のバーでひとときを共に過ごす今の関係を、「何もない」と言い切れるのか。実のところ、自信はなかった。美紗の想いを知らない日垣貴仁にとっては、確かに「何もない」のだろうが……。
 うろたえる美紗の返事に、八嶋は、「そう……」と呟き、にわかに奇妙な笑みを見せた。
「じゃあ、私があなたの席に座りたいと言っても、特に問題ないわけね」
 美紗は、肯定も否定もできずに、身を固くした。いつもの店の奥まった場所にあるテーブル席の光景が、脳裏に浮かんだ。

 静かに瞬く夜の街。
 マティーニと水割りのグラスを優しく照らすキャンドルの光。
 目の前に座るのは、職場では決して見せることのない和やかな笑みを浮かべる彼……。

「八嶋さん、どうして……」

 どうして、知っているの?