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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅷ

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 そう言いそうになって、美紗はぎゅっと唇を引き結んだ。いつもの席に二人でいるところを、たまたま店に来ていた八嶋に見られたのか。それとも、二人の関係をいぶかしんだ彼女が、日垣か美紗のどちらかの後をつけ、店の中にまで入り込んで様子を窺っていたのか。

 そんなはずはない。有り得ない。

 冷たい何かが背筋を流れ落ちるような気がした。鋭い光を放つ釣り上がった目が、瞬きもせずに美紗を観察している。
「どうしてって、さっき言ったでしょ。あなたの席、前から狙ってたって」
「でも……」
 あの席に、八嶋香織が座る。遠慮を知らない瞳が、日垣貴仁を間近に見つめる。躊躇を知らない唇が、想いのままを彼に語る……。

 そんなの、嫌だ
 
「鈴置さんがよければ、私に場所を譲って欲しいの」

 水割りのグラスを傾ける日垣は、時折気恥ずかしげに前髪をかき上げては、差し向かいに座る八嶋香織を、静かに見つめ返すのか。夜景を臨む窓ガラスに、二人の横顔が並んでぼんやりと映るのか……。

 絶対に、嫌だ

 突き上げるような嫌悪感が、不快な幻影を振り払った。
「……誰の席になるかを決めるのは、八嶋さんでも、私でもないと、思います」
 自分でも驚くほどきっぱりとした口調だった。美紗は、両手を握りしめ、激しい鼓動に息が乱れそうになるのを堪えた。
 八嶋の表情が一瞬強張る。しかしそれは、すぐに嘲りの色へと変わった。