カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅷ
備品類が無造作に置かれた小部屋の前で立ち話を始めた二人を、小坂は伸びあがるようにして凝視した。
「渉外班の八嶋さんて、鈴置さんと何か似てない?」
「そう……っすかね?」
「二人揃ったら、そうだな、『ジミーズ』って感じ?」
「何すか、それ?」
パソコンに向かっていた片桐が、斜め前に座る3等海佐に怪訝な目を向けた。
「顔も地味、服も地味、化粧も胸もすっげー地味。何でも地味な二人だから、複数形のS付けて、地味ーズ」
「また始まった」
高峰が嫌そうな顔をするのも構わず、小坂と片桐はいたずらを思いついた子供のような笑みを浮かべた。
「じゃあ、8部の大須賀さんみたいなのは、……『コイーズ』?」
「あっはあ、いいね! まさに濃いもんな! もう一人、ド派手な『濃い』のがいないと、複数形の『S』がつかんけど」
「小坂3佐は、やっぱりコイーズ派っすよね?」
「まっ、そーだな」
小坂と片桐は派手に笑った。高峰がいよいよ二人を怒鳴りつけようとした時、銀縁眼鏡を光らせた宮崎がニヤリと口角を上げた。
「小坂3佐。まだまだ観察が甘いわねえ」
「何で?」
愛嬌のある目を丸くする小坂に、宮崎は手を頬に当てながらオネエ言葉を返した。
「うちの鈴置さんと渉外班の八嶋さん、見かけは似てても、中身は思いっきり真逆。お隣にいて、全然お分かりにならない?」
作品名:カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅷ 作家名:弦巻 耀