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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅷ

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「その人、総務部長じゃないかな。空幕の総務部長、前に会ったことあるけど、確か、もっさもさの白髪頭だったから」
「副長は、黒々染めてて全体的にテカってる感じの人。まあ、僕は部内誌の写真でしか見たことないけど」
 日垣と因縁のある空幕副長を毛嫌いする片桐は、さも不快そうに肩をすくめた。一方、片桐の横に座る高峰は、口ひげに手をやりながら嬉しそうに目を細めた。
「さすが吉谷女史、VIPを早速、手なずけてるねえ」
 己の発言が吉谷の人事異動のきっかけとなったことを悔やんでいた高峰は、「色」の違う空幕に様子を見に行くこともできず、ずっと彼女のことを気にかけていたらしい。安堵の表情を見せる彼に笑顔を返して、美紗は、窓際にある直轄班長の席に視線を移した。昼休み中も自席にいることの多い松永が、珍しく不在だった。
「松永2佐、まだ戻ってませんか?」
 シャワーを浴びてさっぱりした顔の佐伯が、美紗の代わりに、直轄チームの面々に尋ねた。その場にいる全員が首を横に振った。宮崎が高そうな腕時計に目をやる。
「どうしたんですかね。いつも早飯の人がこの時間まで帰ってこないなんて。片桐1尉、何か聞いてる?」
「僕は何も……。そう言えば遅いっすよね。松永2佐、陸自のモットーを地で行く人なのに」
「何、陸自のモットーって」
「あれ、小坂3佐、知りません? 陸は『早寝早飯早グソ』が基本っすよ」
「それ、『早飯早グソ早風呂』じゃねえ?」
 1等空尉と3等海佐がゲラゲラ笑う傍で、陸上自衛隊の制服を着る高峰は不快そうに咳払いをした。
「女性の前でなんちゅう話してんだ。そんなだから、吉谷女史に『小僧』って言われてたんだぞ」
「何すか、それ。『小僧』って、僕?」
「うまいこと言うなあ。『小僧』かあ!」
 再び小坂が大声で笑う。その小坂も同じく吉谷に小僧呼ばわりされていたことを知る美紗は、余計なことを口走らないよう、後ろを向いた。「直轄ジマ」から一番離れた場所にある事業企画課が目に入った。そこの課長と渉外班長の席も空いている。松永を含めた管理者三人で、会合でもしているのだろうか。
 いい年をした男たちが騒々しく雑談する声が、美紗の耳を通り過ぎていった。