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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅷ

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「現地にいた私には『少しの間だけ里帰りする』というような連絡を寄越してきたが、本当のところは、妻はうつ病気味で日常生活を送れない状態になっていたらしい。様子を見に来た義母の判断で、妻と子供は九州に戻ることになって……。その時はあくまで一時的なつもりだったんだろうが……」
「日垣さんが帰国されてからは……?」
 美紗の問いに、日垣は軽く頭を振った。
「それ以来、家族は基本的に九州にいる。九州圏内や山口あたりまでは私と一緒に動いてくれたんだが、妻は『東京はどうしても嫌だ』と言ってね」
「それで、こちらにはずっとご単身で……」
「そうなってしまったね」
「それが、後悔なさっていること……?」
「まあ、そんなことを吉谷女史に言った記憶はあるな。子供の成長を見られない、と愚痴ったりもしたよ」
「でも奥様も、きっと、ずっとお寂しかったと思います」
 遠慮がちに言葉を返す美紗を、日垣は意外そうに見た。そして、静かに頷いた。
「未婚の君でも分かることを、当時の私は全く分かっていなかった。妻のほうが、よほど私と結婚したことを後悔しているだろうな」
「そんなことは……」
「その後の勤務地を九州地区に限定してもらうことも、できなくはなかった。昇進は望めなくなるが、そうすれば家族とは一緒にいられる。私は、……その選択をしなかったばかりに、後で手痛い目に遭ってね……」


 海外派遣から戻った後、日垣は短期間の空幕勤務と米国留学を経て、ようやく家族と一緒に住めるようになった。しかし、僅か一年の後、防衛駐在官として東欧へ赴任する話を打診された。