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安堂 直人
安堂 直人
novelistID. 63250
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藁人形は微笑わない

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「その不審物とやらは蛸です。あの藁人形と同様にして、ダイイングメッセージが刺されていました」
「つまり、第一・第二の被害者が九条くんの中学時代の同級生、第三の被害者が蛸っていう事か。それにしても何故、人を殺さなかったのか。そして――」
「何故、藁人形では無く蛸にダイイングメッセージが刺されていたのか」
 九条が、烏丸の推測に割って入った。
「……流石、九条くんだね。でも、まずは九条くん達の中学時代の話を詳しく聞かせて欲しい。何か手掛かりがあるかもしれないからな」
「もうここまで来ると、手掛かりが無いとは言えない状況になってきましたからね。了解です」
 快諾した九条は、直ぐに語り始めた。





 ――これは、僕が中学一年生だった頃の話です。僕はクラスの委員長。殺された山科美穂は、それを支える副会長。後々行方不明になる高木彩夏は、クラスで飼っていた魚の飼育係。同じく殺された宇治政樹は、「需要が少ないから」との理由で国語係という役割が与えられていました。率直に言いますが、僕は当時高木彩夏に恋をしていました。彼女の性格には乙点を付ける事が出来ない程に、感銘したからです。要するに、「一目ぼれ」みたいな物です。また山科は僕に、宇治は高木に恋をしていました。
 しかしそんな夏のある日、僕らの平凡な日常は綺麗に崩れ去りました。
「誰だい、こんな事をしたのは」
 当時の担任だった先生が、朝礼の時間中に怒鳴り声を上げました。教卓には、無残に切り殺された鱈が入っていた水槽が置かれていました。それに加えて、あの血だらけ(恐らく絵具で赤く塗られた)藁人形が添えられていました。因みに、ダイイングメッセージの様な紙は、当然ながら残されていません。この時点では(・・・・・・)誰も死んでないですから、有るはずは無いですけれど。実際、何とも言えない様なそんなグロテスクな光景に、生徒達は目を疑っていました。
「怖い……」
 一つ後ろの席に座っていた山科がそう呟くのも合点が行きました。しかし、偶々右隣――一番廊下側の席にいた高木は顔を上げる事すら、出来ませんでした。
「大丈夫?」
 僕はそう(自分では)優しく高木に問いかけましたが、返答が有りません。最も、以前から彼女は同級生からの虐めを受けていました。その件は僕らのクラスの中では割と有名な話でしたが、担任を始め多くの教員はその事実を全く聞かされていなかった為か、対策への第一行動でさえ行う事が出来ませんでした。
「高木」
 次にそう呟いたのは僕ではなく案の定、担任でした。僕は、担任がこのタイミングで飼育係の高木に声を掛けるとなると、当然「不審な人は見てないか」みたいな、証人尋問的な質問が来るだろうと予測していました。しかし、彼女に掛けたその言葉はさらに彼女を追い込みました。
「――こういう事をやったのは、高木か」
 前々から虐めを受けていた彼女は、こういう風に悪い事が起こるたびに幾度も幾度も、犯人に押し上げられていました。それを見てただ声を掛ける事しか出来なかった僕も、今思えば同罪なんですが。
「い、いいえ」
 蟻みたいな小さな声で、高木が答えました。
「……いや、お前が怪しい。後で職員室に来なさい」
 そう言い終えて足早に退出した担任を見送った後の教室では、恐らく今回の反抗グループだろう人達が歓喜の表情を浮かべていました。
「どうしよう……」
 そう呟いた僕の声が彼女に届いていたかどうかは定かではないですが、高木の為に何もする事も出来ないまま、気が付けば日付は明日になっていました。
 あれこれ考えてしまって安心して眠る事さえも出来なかった結果、寝坊していつもよりも遅めに登校する羽目になった僕は、さらに目を疑う様な様子を見ました。高木の机が、言葉にしてはいけない様な悪口で埋められていました。それも赤い油性マジックで。比較的人数の集まってきた朝の教室の中で、それでも彼女は平静を取り繕おうとしていました。しかし、僕には見えました――彼女の体が不自然なくらいに小刻みに震えている様子が。ただ、僕は何をする事も出来ませんでした。ここで僕が彼女の為に行動を起こしたら、孰れは僕が次の被害者(ターゲット)になってしまう――そんな思い込みがあったからです。彼女への虐めを止めさせて「正義の味方」になる事よりも、彼女への虐めをただ見ているだけの「傍観者」になる方が、デメリットは少ない、そう僕は思っていました。当然、多くの人々は僕の様な行動をすると思います。ただ、結果的に僕の選んだこの選択肢は悔いの残るものになってしまいました。
「あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ……、ああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっっっっっっっっ」
 高木は皆が驚いてしまう所か、引いてしまう位の大声で叫び教室を出ていきました。
「高木!」
 とっさに僕は声を掛けましたが、彼女は一度も振り向く事無いまま廊下を走り抜けていきました。

 結局のところ、彼女は一時間目が始まっても帰ってくる様子はありませんでしたし、それどころか生きているのかどうかでさえも、怪しく感じていました。
「高木、戻ってこないな……具合が悪いのか」
 その授業の教科担当の先生が、皆に問いかけました。当然、皆は返答すらしません。ただ、高木を虐めていたグループのリーダー格の生徒が「きっと、そうじゃね?」と軽いノリで言い返すと、その先生が再び話し始めました。
「このクラスの委員長と副委員長――という事は、九条と山科。二人で、少し保健室を見に行ってくれないか」
 案の定、教室は騒めき出しましたが、僕にとっては願ったり叶ったりでした。何はともあれ、高木と接近する機会を得られたのですから。心の中では、ようやく安堵の気持ちが芽生え始めました。ただ、彼女の無事を確認出来るまでは、完全に気持ちが落ち着くはずはありません。僕と山科の二人は、直ぐに保健室へと向かいました。
「高木さん、大丈夫かな……」
 山科が小さな声で僕に尋ねました。
「大丈夫じゃないと思う。恐らく保健室で苦しんでいるはず」
「あんな仕打ちを何カ月もされている訳だし……彼女の事だから、きっと自殺なんてしないと思うけれど、まさか死んでいたりして」
 僕が山科に「それは無いって、断固として」と突っ込んだのは良いものの、実際の保健室には彼女すら、人影さえ見当たりませんでした。
「可笑しいね」
「本当に不味いよ、この展開は……」
 僕達は、恐怖に怯えていました。行く先の分からない不安に包まれていました。
「と……取り敢えず、トイレ行ってきて良い?」
「僕も行く。怖くなってきたら、突然行きたい衝動に」
 僕と山科はいそいそと、トイレに向かいました。
「じゃあ、終わったら廊下で待っていて」
「了解」
 ――僕がそう言った矢先でした。トイレに入ったばかりの彼女が悲鳴を上げました。用を足していた僕が「どうしたの」と声を掛けると、山科は震えた声で答えました。
「死んじゃった」
 まさか、悪い予感が的中してしまうのかと思いました。しかし、その悪い予感は確信になってしまいました。
「えっ、何が」
 僕は急いで用を足し終えると、改めて問いかけました。
「恐らく、高木が」
作品名:藁人形は微笑わない 作家名:安堂 直人