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安堂 直人
安堂 直人
novelistID. 63250
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藁人形は微笑わない

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 疑問に思った熊取が、九条に尋ねた。
「一体、あの事件ってどういった事件だったんですか」
「それは八年前――つまり、中学一年生の時に僕の身の回りで起こった事件なんだ。小学時代からの幼馴染みだった高木彩夏が突然失踪した話」
「具体的に証拠みたいなものはありましたか」
「彼女が授業中にトイレに行ったきり帰って来なかったというのもあるけれど、実際の女子トイレの奥にある窓の近くの手すりに、綺麗に畳まれた彼女のセーラー服があった。窓が全開になっていたから、彼女がそこから飛び降りて亡くなったと考える人もいたよ」
 すると、熊取が「裸で逃走ですか、それは無いですよ」と素直に批評した後、九条は冷静にそれを流した。
「……まあ勿論、そのセーラー服がカモフラージュだったという説も考えられた。要するに自殺に見せかける、という意味で」
「なるほど」
 熊取が感嘆する。
「あんなに笑顔が素敵な彼女だったから、軽い気持ちで自ら命を絶つとは思えないんだ。クラスメイトは前者――つまり自殺派が圧倒的に多かったけどね」
「そうそう、あの藁人形の話もしてやらないと」
 烏丸が九条に告げる。
「そう言えば、あの時も遺体の傍にダイイングメッセージがあったんだ。ストロードールは笑わない――確か、パソコンで書かれた字だったんだけどね。今日と同じ様に、藁人形に刺された釘で固定されていた」
「追記ですが、ストロードールってどういう意味ですか」
「単純に和訳すれば、藁人形の事だと思う」
 熊取がそこまでに話された全ての文言を書き留めたのを確認すると、烏丸が「他に聞きたい事は無いかい」と念を押した。
「大丈夫です、有難うございました」
 九条がそう言ってから熊取が軽く礼をした後、二人は近くに置いたままの自転車の方へと歩き出した。
「解決しろよ、名探偵」
 烏丸が呟いたのが聞こえたのか、九条は後ろを振り向かずに左手だけを横に振って返事を返していた。

「……これは不味いかもな」
 九条が熊取に話す。
「サークルですか、それとも事件ですか。孰れにせよ、今日は授業が無いのに、サークルの活動がある日なので――」
「良いって良いって、何しろあのサークルの活動は不定期だし、出席率も悪いから、変に休んでも文句は言われないさ。最も大事なのは、あの事件さ。僕の読みが正しければ、もうじき次の犠牲が出てしまう。早いうちに動ける準備をしておこう」
 熊取は鋭いその目つきで、九条を見つめていた。
「はい」





 二人の自転車は緩やかな早さで、大学とは離れた方――具体的に言えば、大学よりも南の方へと足を進めていた。
「そういえば、あそこに見えるのは八坂神社ですね。二条城で事件が起きたという事は、次もこういう有名な観光スポットで起きるかもしれないですから――」
「案の定、人だかりがあるぞ」
 九条の目線の先には、不自然な程多くの人々が集まっている様子が見て取れる。
「行きますか」
 九条が「ああ」と頷くと、二人はその場所から少し離れた所の平屋の壁に自転車を立て掛けた。
 社伝によれば、八坂神社は六五六年に高句麗から来日した調進副使・伊利之使主が創建したとされている。諸説はあるが、祭神は古くから牛頭天王(およびそれに習合した素戔嗚尊)であったことは確実だそうだ。古くからある神社であるが、延喜式神名帳には記されていない。これは神仏習合の色あいが濃く延暦寺の支配を受けていたことから、神社ではなく寺とみなされていたためと見られるが、後の二十二社の一社にはなっており、神社としても見られていたことがわかる。平安時代中期ごろから一帯の産土神として信仰されるようになり、朝廷からも篤い崇敬を受けた。
 なお、祇園祭は八六九年に各地で疫病が流行した際に神泉苑で行われた御霊会を起源とするもので、九七○年頃から当社の祭礼として毎年行われるようになったのだという。その結果、正月三が日の初詣の参拝者数は近年では約百万人と多く、京都府下では伏見稲荷大社に次ぐ第二位となっている。また東西南北四方から人の出入りが可能なため、楼門が閉じられることはなく伏見稲荷大社と同じように夜間でも参拝することが出来る。但し、防犯のために監視カメラが設置され、夜間でも有人の警備は行われている。
「……どうかなさいましたか」
 九条が、その人だかりの中心にいた女性に声を掛けた。
「これを見てください」
 そう言って女性が指差したのは、地面に落ちていた蛸(たこ)だった。やはり、その蛸には例のダイイングメッセージが書かれた紙が釘で刺されていた。何とも無残なその光景に、熊取は怖気づいていた。
「ストロードールは笑わない――また、あの文面ですか。これは先程の話とも関連性が確実に浮上してきましたね」
「そ、そうだね……でも、さっと周辺を見渡してみても、遺体らしきものは見当たらない。そう考えると、少し不自然な様な気もする。因みに、貴方はそれ以外に不審な物は見ませんでしたか」
 九条が確認を取ろうとしたのだが、彼女は首を横に振ってから「見ませんでした。犯人みたいな人も見えてないです」と返していた。その時、九条の携帯電話の着信音が聞こえてくると、手帳にペンを走らせていた熊取が「わっ」と驚いた表情で、落ちたペンを拾っていた。
「詳しい事は僕の方から署に連絡します。詳しい事は彼女に教えてあげてください。ご協力、有難うございました」
 比較的静かな場所に九条が陣取ると、熊取は現場の様子を撮影しつつも事情を聴収し始めた。
「もしもし」
「……九条くんか。今、私は清水寺に向かっている。事件があったらしい」
 九条の電話の相手は烏丸だった。
「僕達は八坂神社にいます。こちらも事件です」
「――そちらも事件か。今日という日は本当に、なんて日だ」
 向こうで発生した事件の内容を早く知りたい九条は、烏丸が某芸人の某ギャグをオマージュした事には決して触れず、「早く教えて下さい」と切り返した。
「分かった、説明するぞ。清水寺付近に生えている高い松の木の下に男性の遺体があったんだ。それも例の藁人形に、ダイイングメッセージを添えて」
「何、何処かの高級料理の名前みたいに言っているんですか……あっ、一応聞きますね。その文章とは、やはり――」
 九条が華麗に突っ込みを入れながら、質問を投げ掛ける。
「ストロードールは笑わない――いつもの切り抜き記事で作られた文章だ。亡くなったのは、宇治政樹さん――京都市内の大学に通う、こちらも二十一歳の大学生だ。松の木が多く集まっている様な見づらい所にあった為か、死亡後から時間が大幅に経過している。死亡推定時刻は、昨日の夜二十一時半から二十三時半の間らしい」
「えっ、またですか」
 九条が素直に驚いた表情を見せていた。
「……知り合いかい」
「そうです。彼も中学時代の同級生で、親友みたいな者です。だからこそ、彼が殺された事には納得がいきません」
「なるほど、これはもう完全に連続殺人だな。ところで、九条くん達が八坂神社で遭遇した事件とはどういったものかい」
「現場に遺体はありませんでしたが、何故か不審物が一点」
「遺体が無い……? まあ、その不審物とは一体何だったんだ」
 烏丸が再び問いかける。
作品名:藁人形は微笑わない 作家名:安堂 直人