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安堂 直人
安堂 直人
novelistID. 63250
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青春スプレヒコール

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 確かに、虐められっ子の彼が私・月島咲良の事を太陽のように明るく光で照らしてくれる存在だとも思っていなければ、あのような言葉は発せないはずだ。

「……でも今、密かに恋している人がいるんだ」
「さっき妹川駅で話してたあの虐められっ子だよ、月島咲良っていう子なんだけどね――」
「彼女に文化祭の劇で告白するんだ」

 あの日、彼の目の前にいる人物・朝倉梓が私だと見抜けなかった春日が発したその言葉を思い出す。それに加えて、金崎さんの文面や松田さんの事――私は、数日経った今すらその言葉の意味に気付くことができていない。
 しかも、あの日の春日の言葉一つ一つには、まるでその言葉が生きているかのような思いが込められていた。それが、彼の思いが芯の通ったものだという事を証明していた。
 少なくとも、あの日の彼は嘘を一言たりとも吐いていない――それが私の出した答えである。

「……春日君に聞いてみよう」

 私は机の上に置いてあった携帯電話を取り、彼に連絡をする事にした。
 一般論を述べると、この一連の動作は極めて危険なのかもしれない。しかし彼の恋心は、私が演劇部で過ごしていく為に必ず知っておくべき内容の一つに数えられる。

サクラ:ご無沙汰してまーす(^^)/ 朝倉ですっ
    月島さんとは、あの後どうだったの?

 既報の通りだが私は様々な事情により、朝倉梓という架空の人物を演じる羽目になっていた。
 私の事が好きだ、という事を知ってしまった今、間違いなくこういう質問はするべきではないけれども、別人を演じる――という「心に秘められた女優魂」が私の指先を動かしていた。
 そこそこ広い部屋の中にある私の寝床にぽん、と置かれた目覚まし時計の針は、既に一周廻って零時過ぎを差していた。その為、私は彼の返事はすぐには来ないだろうと思っていたのだが、現実は百八十度も異なっていたのである。
 着信音が鳴る。

Shinji: あ、どうもです。春日です
    あの後……あれから暫く部活がお盆休みに入っちゃって。。。
    しかも僕が今、高知に帰省しているから。。。
    次に月島さんに会えるのは恐らく、二学期の始業式の日かな?
    僕はあの子に早く会いたいんです!
    待ちきれないんです!

 この文面を見てから一呼吸程する間に私は、春日伸路という人物がどれだけ変人であるかを改めて確認させられた。
 もし彼の文面通りに行動することになるのなら、私は彼に会いに高知まで行かなくてはならない。勿論、私は自身の貯金をその費用などに投資するつもりも無いし、そもそも、彼には恋のような得体のしれない感情も抱いてはいなかった。

サクラ:……多分、彼女も忙しいんじゃない?
    でも、春日君が「月島さんに会いたい」っていう思いは
    私にはもう十分伝わっているから(*^^)v
    きっと大丈夫だよ!

 私が文面に書いたその彼女――イコール私は、実際、宿題を終わらせ暇を持て余していた。しかもその彼女――イコール私は、やる事がないので寝ようとした矢先、あの日の事を思い出してしまい眠る事さえままならない、という状況であった。……うん、ある意味忙しい。
 すると、我が文面に納得していた私に彼の返信が返ってきた。
 着信音が鳴る。

Shinji: 何か、色々とありがとうね……
   全く関係の無い人なのに、僕の事に協力してくれて。。。

 きっと彼は、思い切り笑顔を見せていたに違いない――そんな様子を思い浮かべた私の顔にも、自然と微笑みが生まれていた。

サクラ:まずは始業式だね!
    頑張ってね(^_-)-☆

 春日はすぐに私の返事に「うん」と返すと、私は携帯電話の画面を閉じた。

 【季節】の無い静かな日々で、何事も無く幸せに暮らしたい――それが、私の心からの願いだった。でも、果たしてそんな事が本当に幸せなのか。気付けば私の過去の夢に疑問の念を発生させてしていた。
「……まあ、いいや」
 私は一度、二度と深く呼吸をしてから寝床へと向かった。
 風呂上がりの私は髪をそのまま下に垂らせていたので、何不自由無く布団の中に入ることが出来た。しかし、その布団を捲り上げる時に生まれた風により、長い髪は私の視線を遮るように顔の上に倒れていた。
 そんな事に気を取られつつ、私は瞳を閉じた。

『……私は宇宙(そら)になりたい』

 それが今の私の状況を表すのに一番適した言葉だった。
 遙かなる宇宙に浮かぶ孤独な惑星――地球。
 人々は太陽という存在によってもたらされる希望によって、私達は目覚める。
 人々は月という存在によってもたらされる安らぎによって、私達は眠りに落ちる。
 それは、私達が楽しむ場所。
     私達が悲しむ場所。
     私達が怒る場所。
     私達が恋する場所。
 つまりそこは、私達が生きていく大きなお家(うち)。
 ――でも孤独な地球さんには、太陽と月の二人だけしか友達がいない。
 しかも、そのうちの月には太陽という存在がいなければ自らの存在を示す事さえも出来ない。
 それは地球さんにも同じ事が当てはまる。

 従って、私という名の太陽に依存している彼は、その地球さんのような立ち位置にいるのだろう。
 ただ、私は彼に対して意識的に希望をばら撒いているつもりなど無い。
 でも彼には、そんな私が織りなしていくその一秒一秒が希望のように思えるのだろう。
 果たして、どちらが夢を観ているのか――見物である。
 
もし、君が夢を観ているのなら……
もし、私が夢を観ているのなら……

「ふう」
 私は天井に向かって、静かに溜め息を吐いた。

 ――今宵も、私は夢に落ちていくのだった。


   6


 私は胸を躍らせながら、新学期の学校に登校していた。
 始業式のあった日は暦の上ではまだ八月ではあったが、最近の学校は夏休みが短縮される傾向にあり、私達の通う的場東高校もそれは例外ではなかった。その為、長期休暇明け恒例の実力考査がつい先日まで行われていた。
 夏疲れを訴え本調子ではなかった私は、前回三位から五位に転落したものの数学で学年一位を獲得した。来年度の文理選択を考えると、まだどちらとも言えない状況だった。文理選択を決めるのは暫くは持ち越しだ。
 ただ、私はクラス内カーストの底辺付近に存在している身分な故、比較的話かけられることは少ない。従って私がどんなに良い点数を撮ろうとも、私の成績は赤の他人が知ることは無い。その為、成績学年上位のうち、毎度一つは空白の順位が出来てしまう。つまり今回なら五位――無論、私だ。
 
 しかしその法則にもついに例外が出来ていた。
 春日伸路――演劇部所属であり、私に恋心を抱く同級生である。
「……どう、咲良。実テはどうだった?」
 終礼時に受け取った今回の実力テストの成績一覧表に目を通していた私に、春日は肩をぽんと叩きながら尋ねた。私はそれに何とも言えない表情で答えた。
「二つ落ちて、五位」
「わぁ、凄いな。僕なんか五百人中の百四位だよ。一体どうしたら、そんな点数獲れるのかな……」
「分かんない」
作品名:青春スプレヒコール 作家名:安堂 直人