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安堂 直人
安堂 直人
novelistID. 63250
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幸せの青い鳥

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 僕は「はっ?」と咄嗟に呟いたが、店員はあっさりとこの意味不明な言語を理解していた。それにしても、何故あんな長ったらしい言葉をすらすらと言えるのだろう。奈央さんは、神か、仏か。逆に、正体不明の稲尾か。
「分かりました。グランデアイスライトアイスエクストラミルクモカラテですね」
 奈央さんだけでなく、その店員さんもあっさりとこの早口言葉を突破していた。なんなんだ、店員さんも神かよ。
 もしや、この店は神様しか来る事を許されていないのだろうか。いや、そんな訳は無い。そんな格差社会など、あってたまるか。
「お次の方、どうぞ」
 どうやら既に奈央さんは会計を済ませたそうで、彼女の次に並んでいた僕は店員さんに呼ばれていたらしい。
「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ」
 切羽詰まった様子の僕は、適当に辺りを見渡した。奈央さんはルンルン気分で、注文した品物を待っている。この状況を邪魔するわけには、行かない。他にヒントは無いのか。いや、そもそもこの店は何を飲食する所なのか……そんな事を考えていた矢先、僕は先程の奈央さんの一言を思い出した。

――どうせなら、一緒にあそこの店にでも行きませんか? あそこでコーヒーでも飲みながら、世間話でもしましょう。

 なるほど、この店はコーヒーを飲む店なのか。そう理解した僕は、止む無くこう告げた。
「コーヒー一つください!」
「……サイズはお決まりですか?」
 妙に冷静な店員さん。サイズってのは、大中小ってやつか。ああ、なるほど理解した。
「それじゃあ、大で」
「ショート・トール・グランデ・ベンティーの四種類がありますが」
 何だよ、このカタカナワールドは。僕は、自らの無知を嘆いていた。しかし、僕はここでも彼女が言い放った、ある言葉を思い出した。

――それじゃあ、グランデアイスライトアイスなんとか……を一つ。

 最早、僕自身の記憶が曖昧になってきたが、仕方がない。きっと一番初めに奈央さんが言った「グランデ」はサイズに違いない。寧ろ、そう言う以外に注文は出来ない気がする。
「ぐ、グランデで。ミルクと砂糖ってありますか?」
「ミルクとお砂糖は、隣のコンディメントバーにありますよ」
 注文もろくに出来ていない僕の後ろには、気付けば人々の行列が出来上がっていた。やめてくれ、こんなみっとも無い姿を見られるのは勘弁だ。でも、注文出来ずに何も飲食できないのは情けない。仕方ない。僕の中にある、全ての羞恥心を消し去ればいい。分からない事は素直に尋ねよう。ていうか、奈央さま。僕を助けてくれ。神でも仏でも稲尾でも良いから、僕にスタバの全てを教えてほしい。
「こ、そのコンデなんとかとは何ですか?」
「ああ、はい。ミルクや砂糖は勿論ですが、マドラーやストローなんかが置いてある所です。ここで、お好きなものをお取りください」
「な、なるほど……」
 僕は、店員さんの丁寧すぎる説明にすっかり感服していた。そして丁度、奈央さんは注文した品物を受け取っていた。確か、アリアナグランデがアイスでライトが何とか、だったと思う。駄目だ、全然覚えていない。僕は、自らの無知を改めて再確認させられていた。
「な、奈央さま! 困ったから、注文の方法を教えてよ」
 何故か奈央さまとかいう謎の通り名で読んでしまっていた為、僕は恥じらいまくっていた。くすくす、と世間の笑い声が僕を包み込んだ気がした。迷信だ、これは夢だ。
 しかし案の定、奈央は僕の話が聞こえていない様だった。
「ここの席に座っとくから。早く来てね、如月さん」
「う、うん……」
 何度も言うが、如月は本名では無い。如月は、僕自身が二月生まれだったという理由から、シンプルに名付けたハンドルネームに過ぎない。苗字や名前がキラキラしているなあ、という印象は、何とも複雑だ。だが、僕の本名は日本で三番目に多いらしい、ポピュラーな苗字なのだが。
 そんな時、僕はやはり彼女が溢した言葉を思い出した。

――良いから、良いから。困った時はCODって言っていればいいのよ。

 CODって、何だろう。コールドの造語か、何かなのか。いや、そんな事はどうだって良い。僕だって、覚悟を決めたんだ。
「CODを一つで!」
 店内に響いた僕の声の大きさに、人々は一瞬しんとなっていた。正直、自分のメンタルが崩壊してしまいそうだ。自らの無知を、心行くまで思い知った。
「……わ、分かりました。サイズは何にしますか。ショート・トール・グランデ・ベンティーの四つがありますが」
 これも、先ほど学習した通りだ。経験はきっと、嘘を吐かない。信じていれば、きっと叶う――ミサさん、いや、奈央さんが以前SNSで呟いていた台詞だ。肝に銘じよう。
「グランデ!」
 どや顔で言う台詞では無い事は百も承知だが、僕はそうするしかなかった。
「か、かしこまりました。では、ホットとアイスは、どちらに致しますか」
 これくらいは、無知の僕にも分かる。きっと、熱いか、冷たいかの事だ。
「アイスで!」
「は、はい。ご注文を確認します。グランデのCOD、アイスですね。お代金は――」
 壮絶なカタカナ言葉による注文を終え、放心状態になりつつあった僕は辛うじて会計を終え、座席へ向かった。勿論、コンディメントバーで砂糖などを取ってからだ。
「……た、ただいま」
「おかえり。注文は大丈夫だった?」
 心配そうに奈央さんは振る舞っている様にも見えた。僕の注文を直接助けてくれた訳でもないのに。
「う、うん。何とか。CODにしたよ、グランデの。結構容器が大きいね」
「そ、そりゃあそうだよ。グランデはLサイズみたいなものだから。ていうか、今日のCODはストロベリークリームフラペチーノなんだね」
 当然であるかの如く、奈央さんはCODを眺めていた。だがここで、僕にも疑問点がある。
「きょっ、今日の? もしかして、CODは日替わりドリンクみたいなものなのか?」
「うん。そうだよ、CODはコーヒー・オブ・デイ、今日のコーヒーの略なんだ。因みに、店によってはコーヒー・オブ・ウィーク、COWという週替わりコーヒーもあるんだ」
 僕は、「へえ」と感嘆していた。
「――因みに、さっき奈央さんが注文してた、グランデ何とかってのは何?」
「ああ、グランデアイスライトアイスエクストラミルクモカラテね。意味は、見ての通りだよ」
 そう言って、奈央さんは僕にその容器を見せた。いや、見ての通り。僕には意味不明です。
「な、何?」
「要するに、グランデサイズのアイスモカラテって事ね。モカラテっていうのは、チョコレートソースを入れたラテの事ね。ライトアイスは、氷少なめ。エクストラミルクってのは、ミルク多めって事。要するに、Lサイズのアイスモカラテの、氷少なめ・ミルク多めって事だね」
「……知るか」
 僕はカタカナすら理解できない、純粋な日本人だったらしい。
 先ほどの注文で疲れてしまった為に自らの息を整えようとした僕は、CODを口にした。うん、良きかな。丁度良い美味しさだ。

 CODを飲み干し、元の落ち着きを取り戻しつつあった僕は、既にモカラテを飲み終えた奈央さんに話した。
「ところで、ゲームの話なんだけd……」
作品名:幸せの青い鳥 作家名:安堂 直人