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熱愛~国王の契約花嫁~外伝其の一~

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 ―怖い。凜蓮は怯えた。漆黒の闇を宿した双眸は底なしの闇のように暗く深い。よく知るサスとは別人のようだ。
「俺はそなたの何なのだ?」
 凜蓮は眼をまたたかせ、サスを見上げた。
「国王殿下(チュサンチョナー)には幾度も抱かれたのだろう? 俺には膚を見せるのも厭わしいと?」
「私」
 凜蓮は厭々をするように小さく首を振る。
 違うのです、私は一度も国王さまに抱かれてはないないのです。
 そう言おうとしても、烈しいサスの瞳を見ると萎縮してしまい、何も言えない。
「そなたと共にいて、俺に何もせずにいられるはずがない」
 サスが凜蓮の細い手首を掴み、引き寄せた。勢いで彼女の身体はサスの厚い胸板に倒れ込む。逃れようとしても、すぐに背中に逞しい腕が回り、動きを封じ込められた。
「サス、国王殿下からの言いつけでこの結婚を断れなかったのだとしたら、私から離縁を言えば、あなたは楽になれる?」
「何だと?」
 サスの鋭い瞳が剣呑に光った。
「結婚早々、俺を棄てるというのか!」
「そうじゃない。私、あなたが苦しんでいると思って。私と結婚したくないのに、王命だから、あなたが断れないのだと思ったから」
「煩いっ」
 サスが怒鳴った。凜蓮の身体がピクリと震えた。穏やかで常に沈着なサスが凶暴な獣のようになったところなど、見たこともない。それだけに、恐怖で身体が震えた。
「国王殿下の話は聞きたくない。国王のことなんか、二度と俺の前で口にするな」
 サスが鋭い視線で凜蓮を見た。
「こんな襤褸家には不似合いのあの箪笥もどこかへ棄ててくれ」
 それは賢宗が山のように贈ってくれた祝いの中でただ一つ、凜蓮が新居に持ち込んだものだ。螺鈿細工の瀟洒な小箪笥で、牡丹の花の細工が見事な逸品だ。
「そなたを抱いた男が情けで寄越した祝いの品だと見たくもない」
 唾棄するような言い方に、凜蓮はつい口走っていた。
「殿下はそんな方ではありません。私たちのために良かれと思って下さったのに、そんな言い方をするのは止めて」
 凜蓮が王を庇ったことが余計にサスを激昂させているのを彼女は迂闊にも気付かない。
「俺の前で国王を庇うのか! そんなに王が恋しいなら、さっさと後宮に戻れッ」
「―っ」
 凜蓮は涙ぐんだ瞳でサスを見た。
 もう、駄目。サスがこの結婚を喜んでいないことも、昔と同じような気持ちを自分に対して抱いていないのも承知はしていた。それでも、こうして夫婦になれたのだから、もう一度理解し合って、今度こそ最後まで添い遂げようと思っていたのに。
 凜蓮は静かな声音で言った。
「私の存在がそこまであなたを苦しめているとは知らなかったの。私は今でもあなたが大好きよ。でも、大切なあなたを苦しめたくないから、私から出てゆくわ」
 凜蓮は床に落ちた上衣を拾おうとした。哀しいけれど、サスとはもう一緒にやってゆけない。彼をここまで苦しめているのが自分だと知った以上、この結婚という枷から彼を解き放ってあげるべきだ。
 そう思って別離を覚悟した凜蓮だった。
 だが。チョゴリを拾う前に、凜蓮の身体は強い力で突き飛ばされた。起き上がろうとする前に、サスが素早く覆い被さったため、身動きもできなくなる。
「サス!」
 咎めるように言うのに、サスが不敵な笑みを刷いた。
「俺がそなたを易々と放してやると思うのか? 凜蓮、そなたが後宮にいる間、俺がどんな想いでいたか、そなたは知らないだろう。何度王宮に乗り込んでいって、そなたを奪い返そうと思ったかしれない。そなたが国王に抱かれていると想像しただけで、嫉妬に気が狂いそうで、いっそ国王とそなたを殺してやりたいとさえ思ったさ」
 乱暴な手つきで胸に巻いた布を解かれる。
「サス、止めて。幾らあなたでも、こんな強引なのはいや」
 今のサスは凜蓮を愛しているから求めているのではない。ただ王―他の男に奪われた女を取り戻したから手放すまいと意地になっているだけ。
 そんな形で結ばれるのは、たえ恋い焦がれた男といえども嫌だ。凜蓮は渾身の力で抗ったけれど、その抵抗が余計に男の情欲を煽っているのだとは知らない。
「そなたを何度でも抱いて、国王のことなんて忘れさせてやる。俺のことしか考えられないようにしてやる」
 うわ言のように呟きつつ、サスは凜蓮の纏った衣服を引き裂いていった。
「いやっ」
 時折、凜蓮の悲鳴や泣き声が混じる他は、静かな冬の夜は呆れるほどゆっくりと過ぎていった。

 凜蓮の睫が細かく震え、ゆっくりと瞳が開いた。一瞬、彼女は我が身がどこにいるのか判らなくなった。意識が覚醒した瞬間、身を切るような寒さが身体の芯まで迫ってきて、思わず身を震わせた。
 見れば、自分はあられもない姿で、何一つ身に付けていない。これでは寒いのも当たり前ではないか。身を起こそうとして、ツキリと下腹部に痛みが走った。
「私―」
 昨夜の記憶が一挙に甦る。泣き叫ぶ凜蓮を押さえつけて、サスは想いを遂げたのだ。こんな形で結ばれたくはなかった。凜蓮の瞳に新たな涙が滲む。
 何故、サスは話を聞いてくれなかったのだろう。昨夜、凜蓮は後宮に入っていた時、王との間には何もなかったのだとサスに訴えようとしていたのだ。
 嫌がる凜蓮を組み敷いたサスに余裕は一切なく、ろくに解すこともなく純潔を奪われた。最初、サスは蓮蓮が処女であったことに酷く愕いたようだった。それもそうだろう、彼は直前まで凜蓮は?国王の使い古し?だと信じていたのだから。
―痛い、抜いて。お願いだから、止めて。
 ひと息にサスに貫かれた凜蓮は涙を溢れさせ、懇願した。初めての夜は誰でも痛むものだとは聞いていたけれど、昨夜の痛みは生半ではなかった。凜蓮は涙を流し、サスに?止めて、許して?と訴えるのが精一杯だったのだ。
 凜蓮は痛む身体を宥め、立ち上がる。昨夜はそのままサスに押し倒されたので、夜着に着替えることすらなかった。床に散らばった衣服を身に付けていると、背後で人の気配がした。
 振り向くと、サスが上半身を起こしていた。凜蓮は彼から顔を背け、立ち上がる。瞬間、腰を鈍い痛みが襲い、凜蓮はくずおれるようにその場に座り込んだ。
「大丈夫か?」
 サスが慌てて声をかけてくる。
「―」
 凜蓮は今度はゆっくりと時間を掛けて立ち上がった。また痛みが走るが、我慢できないほどではない。昨夜のご馳走を温め直そうと鶏の蒸し物を手にしたときだ。サスが躊躇いがちに言った。
「昨夜は済まない」
 凜蓮はひたすら沈黙を守った。何をどう言えば良いか、判らなかったからだ。
「痛かったはずだ。そなたが初めてだとは思わなかったから」
 何も応えない彼女に焦れたように、サスが言った。
「何故、言わなかった?」
 刹那、凜蓮の心に怒りが燃え上がった。
「私は何度もあなたに言おうとしたわ。でも、あなたが聞く耳を持とうとしなかったのよ」
 サスが溜息をついた。
「今でも信じられないよ。王の後宮にふた月もいながら、何故なんだ?」
 凜蓮はしばらく口を閉ざしていたが、やがて小さな声で言った。
「私も最初は愕いたわ」
「それは、どういう意味だ?」