新・覇王伝__蒼剣の舞い【序章】
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「父上、この分だと日暮れまでに蒼国へ入れそうですね」
笑顔で振り向く息子に、男は頷いた。
これから、どんな危険が待っているか理解らない。笑む少年の期待が、不安に変わるのは間違いないだろう。父としての思いと、剣を持つ者の使命との間で、その心は揺れている。
「拓海、もしかすればお前が実戦で剣を振るうのは近いかも知れん」
「はい?」
拓海___未だ17歳の少年の運命は、この瞬間から始まる。
「それと___いい加減降りてこい」
「?」
「うわぁっ…!」
降りてきたと云うよりも、落ちてきた人物に拓海は唖然とした。
赤い髪に、赤い服の青年。
「誰…」
「酷いなぁ…狼靖さま。急に脅かすなんて」
「人の後をこそこそついてくるのと、どっちが悪い?」
「父上、知り合いですか?」
「………」
狼靖は、無言のまま歩き出した。
「ちょっと、狼靖さま」
「お前の相手をするなと云われている」
「セイちゃんですね、そんな事いうのは。この朱雀を無視するなんてあの冷血漢」
「朱雀…?」
赤い髪を掻き上げる青年と拓海の目が合う。
拓海を見るガーネットアイが、大きく見開かれる。
「狼靖さまの息子?…ってセイちゃんの…」
理由が理解らない。初対面にも関わらず、嬉しそうに肩を組んでくる。
「あ、あの…」
「気にしない♪気にしない♪仲良くやろう、僕、四獣聖・朱雀の焔」
「…えええええええーーーーー」
息子の驚きを余所に、狼靖は溜息をついた。
早くも、拓海の期待は不安になりつつある。連れて来て果たしてよかったのか、父として些か拓海の将来が不安になった狼靖であった。
蒼国は、四国四カ国の中で最も小さい国である。
北は黒抄、西の白碧、南の紅華と列強の国と接し、王となった男は七年前まで自由戦士という異色の存在である。
「これはこれは、野育ちの蒼王陛下自らお出ましか?」
嫌味たっぷりに男は、数人の仲間と共に嘲笑う。
「悪かったな。そっちこそ、腹黒王に振り回されて気の毒なこった」
舌戦では負けていない男の応酬に、黒抄軍は剣を抜いた。
「これでは和議どころじゃありませんね、清雅さま」
「星宿、俺は和議なんざするつもりはねぇよ」
見事な龍を剣の柄に施した剣を握り締め、清雅は飛躍した。
作品名:新・覇王伝__蒼剣の舞い【序章】 作家名:斑鳩青藍