ねとげ~たいむ・エキスパート!!
それから1時間ほどしてコンテストは終了した。ちなみに優勝したのは近所に住む小学生の女の子だった。
それから私達は家に帰って来てティータイムとなった。
リビングのテーブルの上にお店で買って来た菓子器に入れて置き、さらに私がキッチンでお湯を沸かして淹れて来た紅茶を差し出した。
「全く、何でアタシが退場なんだよ、何も悪りぃ事してねぇだろうに……」
「あはは、さすがにあれは……」
お菓子を頬張りながら文句を言っている蟹江先輩に私は苦笑する。
そして次に私は部屋の隅で膝を抱えてうな垂れている亀谷先輩に向かって言った。
「あの、亀谷先輩……、お茶淹れたんですけど、一緒にどうですか?」
「もうお嫁にいけない、もうお嫁にいけない、もうお嫁にいけない、もうお嫁にいけない、もうお嫁にいけない、もうお嫁にいけない………」
私の声は耳に入っていなかった。
心に深い傷を負った亀谷先輩はブツブツ言っていた。
何しろ亀谷先輩と蟹江先輩は大会に参加できなかった。
家で掃除をしているとコスプレした萌ちゃんがやってきて、理由も無く私を会場に連れて行かれると、商店街では既にお姉ちゃんがコスプレをしていた。
その時に蟹江先輩と亀谷先輩もコスプレしてたんだけど、2人の姿を見て私は驚いた。
蟹江先輩は左目玉がぶら下がり、灰色の頬が零れ落ちて上下数えて5本しかない歯のマスクとボロボロになったTシャツとボロボロになったジーンズのゾンビ。
亀谷先輩は頭に小さい角を生やし、ノースリーブで大きく背中が開き、腹部部分が菱形に開いておヘソが丸出しになって裾がやたら短い虎柄の……、一昔前のジュリアナ嬢(死語)が着る様な服と膝丈まである虎柄ブーツ、虎柄リストバンドを嵌め、恐らくバットを改造した物だろう金棒を持った鬼(と言うか雷様?)になっていた。
蟹江先輩はやる気満々だったんだけど、亀谷先輩は恥ずかしがって電柱に隠れて小さくなっていた。
萌ちゃんが引っ張り出すとふくよかでボリュームのある胸がひときわ目立ち、通行人の視線を集めていた。嘆かわしい事だ……、
その後受付に行くと亀谷先輩は『やりすぎ』と言われて参加させられないと言われた。
見るなって言う方が無理だけど、受付の人も男だったので、その視線が胸に行くと亀谷先輩は顔どころか全身を赤鬼のように真っ赤にすると両肩を震わせて発狂し、大泣き(まさに泣いた赤鬼)してしまった。落ち着かせるのに大変だった。
蟹江先輩はコンテストに出る事は出来たんだけど、ステージに上がった瞬間、あまりの出来の良さに子供達が大泣きしてしまった為に司会者達に強制退場させられた。
その後はステージ裏で不貞腐れていた蟹江先輩と膝を抱えて病んでしまった亀谷先輩を回収して帰って来たのだった。
そんなに時間は掛からなかったと思う。
蟹江先輩は立ち上がって言って来た。
「じゃあアタシ帰るわ、冬コミの準備しないといけないから」
「え、もう帰るんですか? っ言うか冬コミってまだ先のはずじゃ?」
「そうはいかないよ、って言うか裏を返せば後2ヶ月しかないって事だろ」
蟹江さんは言った。
まだコミケに受かっているかどうかは分からないけど、それでも準備しておくに越した事は無いと言う。
ちなみにネームはサークル仲間と話しあって作成し、送られてきたネームを蟹江先輩が本描きした物をネットで配布して仕上げていると言う。最近の漫画家さんもタブレットやパソコンで描いている人も多いらしい、文明の進歩は凄まじい物だ。
そして売るのも自分達で行っていると言う、この衣装もそのサークルの友達が作ってくれたらしい、そう言うと蟹江先輩は私に近づいて左手で私の肩をつかみながら言って来た。
「妹ちゃん、興味があるなら一緒にいかないか? 妹ちゃんならウチのサークルの売り子にピッタリだ」
「ちょっと望! 毎回言うけど、妹を腐の道に引きずり込まないでよ!」
「はぁ? 別に良いだろ、そこは個人の自由だし」
「ダメよ! 茜は私の妹よ! 誰にも渡さないんだからね!」
シスコンと婦女子の口喧嘩の中、私や他の人達は溜息を零した。
作品名:ねとげ~たいむ・エキスパート!! 作家名:kazuyuki