ねとげ~たいむ・エキスパート!!
それから私達はとうとう最深部へやって来た。
洞窟内は大きくえぐり取った様なドーム状になっていて、足場は所々岩が突き出ていた。
すると私達の目の前の床の隙間から1体のスライムが這い出て来た。
そしてそれは大きくなって行くとざっと数えて15メートルはあるだろう、とても巨大で透き通った体のスライムとなった。
そしてモンスターの名前が表示された。
『クリア・スライム』
このクエストの最終バトル。
私達は一斉に得物を構えた。
「偉いまたシンプルな……」
私はため息を零した。
でもだからって気を抜く訳には行かなかった。
今までだって油断して危ない目にあって来たんだ。それ位の学習能力は私だってある、しかし……
「あれ?」
私は首を傾げた。
いや、それは他の皆も同じだった。
クリア・スライムはただ震えているだけで仕掛けて来なかった。
これじゃスライムじゃなくてただの水風船だった。
相手がスライムだからって警戒を怠ってる訳じゃ無い、でもそれ以前の問題だった。
そんな事を考えているとホイップ君が言って来た。
「もしかして、カウンター型ですかね?」
「古人曰く『自分で自分の首を絞める』」
「だったら止めた方が良いね」
私は納得する。
ホイップ君も僧侶キャラだから回復魔法だけじゃなくて各種補助魔法を使う事が出来る。
中には相手の攻撃を利用して跳ね返す物も存在する、レミだってよく使ってる。
そう考えると迂闊に攻撃するのは危険だった。
だけどここに空気を読まない人が1人いた。
「フン、水饅頭風情が、大きければ良いと思うな!」
「ちょ、ショコラさんっ!?」
私が止めるのも聞かずにショコラさんはテオブローマ・ツヴァイを手に取ると呪文を唱えた。
ショコラさんの足元に魔法陣が浮かび上がって杖の先端に紅蓮の炎が点った。
足を捻って一回転、さらに頭上でテオブローマ・ツヴァイを回転させて石突きを地面に突き立てた。
「燃えあがれ地獄の業火ッ! サタン・ブレスッ!」
ショコラさんのギガ・ファイザが炸裂した。
その叫びと供にメタモル・スライムの周囲に無数の紅蓮の火柱が上がり、先端部分が竜の頭の様になって鎌首を立てるとメタモル・スライムに当たって爆発した。
この威力は正直言ってアルネちゃんに勝るとも劣らなかった。
「やった?」
「いや、まだ」
センリが顔を顰めた。
するとどうだろう、爆煙が晴れると中からクリア・スライムが現れた。
多少ゼリー状の体が弾け飛んで壁や地面にぶちまけられただけだった。
やっぱり今までのスライムとは違った。恐らく魔法耐性を持ってるから魔法の効果が薄いんだろう、それどころかとんで無い事が起こった。
クリア・スライムの体がどんどん赤くなって行くと全身から無数の触手が飛び出して地面に突き刺さった。
途端私達の足元が真っ赤に染まると地面から火柱が上がった。
「きゃあああっ!」
私達は吹き飛ばされた。
今のは間違いない、ショコラさんのギガ・ファイザだ。
「今のって……」
「我の魔法か? おのれぇ、水妖の分際で生意気なぁ!」
「元はといえば誰かさんが話を聞かなかったからだろ」
「何だとッ!」
ホイップ君の皮肉にショコラさんは激怒した。
そんな2人に構わずセンリは立ち上がると神鳥の杖を構えた。
途端紫色の魔法陣が浮かび上がると杖に稲光がほとばしった。
「ライザーっ!」
センリは魔法を唱えた。
ただしこれは雷属性の魔法で、1番弱い魔法だった。
小さな雷の矢がクリア・スライムを襲うとクリア・スライムの体に電撃が走った。
初級魔法で多少とは言えダメージを与える事は出来た。でも次の瞬間とんでもない事が起こった。
なんとクリア・スライムの体が今度は金色に染まるとセンリに向かって雷の矢が放たれた。
作品名:ねとげ~たいむ・エキスパート!! 作家名:kazuyuki