ねとげ~たいむ・エキスパート!!
プレイヤーズ・バーへやって来た私達。
私の隣にショコラさん、向かいにセンリとホイップ君が並んで座った。
でも相変わらずこの2人はしかめっ面で目も合わそうとしなかった。
何でも武器を強化するか防具を強化するかで意見が分かれてしまったらしい。
ショコラさんは武器を、ホイップ君は防具を強化したいと言うんだけど……
「全く何故分からない、攻撃こそ最大の防御というだろう、つまり攻撃無くして勝利はありえん!」
「ハッ、何が攻撃無くしてだよ、それで何度も負けてりゃ何の意味も無いよ」
ホイップ君が愚痴った。
確かに相手にダメージを負わせなければ倒す事は出来ない、でもこちらも制限時間とHPが0にならなければ負ける事は無い…… ゆっくりとダメージを与え続けていけば(相手が回復しない限りは)勝つ事はできる。
どちらの主張も私には分かる、私は戦士だから攻撃力強化はありがたいし、ブロッカーとしても防御力を上げたい。
するとセンリが言って来た。
「古人曰く『二兎追う物は一兎も得ず』、確かに1つに絞った方がやりやすい」
「そうですよね! ですからじっくり腰を据えて戦える防具を……」
「否ッ! 一撃必殺の武器だ! 闇の魔力が高まればどんな魔物の大軍でも一網打尽だ!」
「どんな魔法でも封じられたり混乱したりしたらお終いじゃないか、この前だって魔法封じられてパニクってたくせに」
「何だとキサマ! 攻撃手段があまり無いからってひがむなんて最低だぞ!」
「最低なのは姉さんだろ! いつもいつも自分勝手に動いて迷惑かけてるの止めろよ!」
「何が迷惑だ! 小さい頃は『お姉ちゃん、お姉ちゃん』ってうっとおしい程付いて来たくせに! あれこそ迷惑だ!」
「ちょ、何だよそれ! 自分だって小3の頃までオネショしてたくせに!」
「なっ、かかか…… 関係無いだろ! 大迦者! 大体貴様は!」
「姉さんだって!」
2人は席を立蹴って立ちあがるとテーブルを叩きつけながら罵詈雑言を浴びせまくった。
周囲の人達も何事かと2人を注目する、センリは呆れてため息を零したけど、私は2人をほおって置けないので落ち付かせようと太立ち上がろうとした。
するとその時、1人のアバターが私達の前に立ち塞がった。
「ちょっと待ったっス!」
「アルネちゃんっ!」
「こんばんわっス〜?」
アルネちゃん(萌ちゃん)はニッコリ笑いながら手を振った。
すると私の声に反応するかのようにプレイヤーズ・バーにいたほぼ全てのアバターが振り向いた。
「えっ、アルネちゃん?」
「アルネちゃん!」
「アルネちゃんだ!」
「「「「「「うおおおーーーっ!」」」」」
プレイヤーズ・バーに歓声が上がった。
アルネちゃんは陽気に他の人に手を振った。
アルネちゃんがリアルでも人気者だって事は知ってる、何しろ幼馴染だからだ。
でもネット世界でもとは思わなかった。
するとホイップ君が言って来た。
「コロナさん、アルネさんとお知合いなんですか?」
「えっ? 『アルネさん』……と?」
この言葉に首を傾げた。
するとショコラさんが説明して来た。
「その者は…… と言うより貴様達と同じく闇の力に魅入られし眷属だ。知り合ったのは…… まぁ、半月前なんだがな」
「あははっ、何言ってるっスか、アタシは『闇を払う聖なる光』、まじかる☆アルネっス!」
「張り合ってどうするのよ」
私は目を細めた。
2人ともセンリと同じ魔道士職、主に黒を象徴としたショコラさんはダークなイメージの魔女タイプ。
でもアルネちゃんは正反対で、白とピンクを主体とした派手で煌びやかな…… 本人の言う通り魔法少女タイプだった。
私はふとセンリを見る、センリはどちらかと言うとショコラさん寄りだけど、別にそこまでこだわっている訳じゃ無かった。
だけどもし、センリがアルネちゃんみたいな魔法少女だったらと想像して見た。
派手な服とマントを翻してステッキを振るって満開の笑みを浮かべながらウィンクしながら『あはっ』って言うセンリを想像してみる……
(ダメだ! 想像できない〜〜〜っ!!)
「……何???」
考えるのを止めて頭を抱えながら悶絶する私にセンリは目を細めながら首を傾げた。
「それで、一体何事っスか? 2人がケンカしてたみたいっスけど?」
「え? ああ、それは……」
私はショコラさん達を見た。
作品名:ねとげ~たいむ・エキスパート!! 作家名:kazuyuki