ねとげ~たいむ・エキスパート!!
このフロアの宝箱の中も上の階と似たりよったりだった。
調合素材や回復アイテム、そして僅かな金子…… 最早子供のガラクタの方がマシだった。
私達はさらに探索を進めようと向かって右の通路へ向かった。
通路を抜けると直ぐに別の部屋となった。
次の部屋もまるで同じ構造で、似たような荷物が散乱しており、今度は右側の壁にさらに奥へ進む扉があった。
そしてその次の部屋に行ってみると今度は右の壁と真正面の壁に奥に続く扉があった。
どうやらこの階は全て同じ構造の部屋が9つ作られているらしい、そして中央の部屋にさらに地下に続く階段があった。
「何なのよ、この家〜っ! また降りるの〜っ!?」
「ややこしい造りね…… 責任者にヤキ入れてやろうかしら」
「古人曰く『豆腐に鎹』、無駄な事は止めるべき」
センリは逆ギレしたエミルと鬼の顔になりつつあるレミを止めた。
慣れて来たもんだ。
ちなみに今のセンリの諺は『猫に小判』や『糠に釘』などと言う、やっても意味が無いという言葉だった。
エミル・レミ・センリは階段を下りて行った。
その後に続いて私も一歩足を踏み出そうとした瞬間だった。
「……ふぅ」
その様子を後ろから見ていたテリオさんがため息をこぼした。
どうやら呆れてしまったようだ。
私は顔を曇らせながら言った。
「ごめんなさい、お姉ちゃんの所と違って騒がしいパーティで……」
「そんな事無いわよ、私達のパーティもこんなもんだし」
テリオさんは言い返した。
テリオさんがいるお姉ちゃんのパーティも集まる度に慌ただしくなると言う。
確かにこの間のやり取りを見る限りはかなりの個性的な人達ばかりだった。ただその中でローネさんとテリオさんだけはマジメに見えた。
私がその事を話すと……
「無い無い、ローネだって怒ると恐いよ、まさに地獄の鬼も逃げ出すくらい…… それに貴女のお姉さんだってそうでしょう? 普段しっかりしてる癖に、身内の前じゃ怠けてるんじゃない?」
「えっ?」
「はい、正解」
テリオさんは片目を瞑りながら右手の人差し指を伸ばした。
「知って…… たんですか?」
「見てれば分かるわよ、いくら上手に隠してても細かい所でボロが出るのよ…… 伊達に7人姉弟の長女をやってんじゃないんだから」
テリオさんは吐き捨てた。
何でもテリオさんは弟君や妹ちゃん達が良く悪戯やつまみ食いをするので、それで人の隠し事を見抜くのが得意になったのだと言う。
ただアルネちゃんは幼馴染だから知ってるけど、ローネさんとルキノさんは本当に知らないらしい。
「あの子、いつも自分の家に来るのを断るのよ、勉強会を開くにしてもいつもロビーだし、きっと自分の部屋には見られちゃいけないモンがあるんじゃないかってね…… まぁ、その場合は部屋が散らかってるか如何わしい本があるかのどっちかだけど」
テリオさんは苦笑する。
如何わしい本はともかくとしてあの汚部屋は思い出しただけでも身も毛がよだつ……
テリオさんはしっかりしてるし人間も出来てる…… お姉ちゃんは悪くは無いんだけど、同じ姉としてテリオさんを見習ってほしかった。
そんな事を考えていると階段の下からエミルの声が聞こえた。
「2人とも何やってるの〜? 早く行こうよ〜っ!」
「あ、待たせちゃったわね…… コロナちゃん、行きましょう」
「は、はい…… あ、テリオさん」
「ん?」
私が呼び止めるとテリオさんは振り向いた。
それはお姉ちゃんの事だった。
いくらだらしのないお姉ちゃんでも私のお姉ちゃんだ。それに慕ってくれる友達だっている……
真実を知ったら見捨てるって事にはならないけど、お姉ちゃんから友達が離れるのは気分が悪かった。
「その、お姉ちゃんの事なんですけど、他の人には……」
「ああ、大丈夫よ、他の連中には言わないし友達を辞めるつもりも無いから」
「テリオさん……」
テリオさんは良い人だ。
ファンクラブが出来るのも分かる、カッコいいだけじゃない、この人は人間が出来てる。
私がそう思っていると……
「まぁ、それに……」
「それに?」
「ああ、ごめん、ただの独り言…… さ、行きましょう、エミルちゃんが待ってるわよ」
「はぁ……」
歩き出したテリオさんの背中を見ながら私は小さく頷いた。
今の『それに……』の意味がどう言う物かわからないけど、今は先に進む事が先決だった。
私もテリオさんにやや遅れて階段を下りて行った。
作品名:ねとげ~たいむ・エキスパート!! 作家名:kazuyuki