ねとげ~たいむ・エキスパート!!
集会所前で待っていたエミル達と合流するとクエストを受けようと階段を上がっていった。
その途中でエミルが握った両拳を突き上げながら言ってきた。
「さ〜て、今日も暴れるぞ〜」
「随分気合入ってるね」
私はエミルに言った。
何か良い事でもあったのか、今日はとても大張り切りだった。
いつも元気いっぱいのエミルだけど、今日はさらに輪をかけていた。
「何かあったの? 随分嬉しそうだけど」
私は尋ねて見る。
するとエミルはもったいぶる様に両目を細め、口の両端をあげると思い切りもったいぶる様に言ってきた。
「ええぇ〜〜? なぁに〜〜? 聞きたいのぉ〜〜〜?」
自分で聞いておいてなんだけど微妙にイラッと来た。
するとエミルはアイテムの装備欄を開き、武器にカーソルを当てた。
「えっと…… ブラスター・シューズ?」
「ちょっと、アンタそれって……」
「そっ、課金アイテム!」
エミルは胸を張って自慢げに言った。
課金アイテムと言うのは実際にお金を払って買うアイテムの事だ。
通常ゲームのアイテムはゲーム内で得たお金、すなわちモンスターを倒したり洞窟内の宝箱など、クエスト中に得たお金で買い物をする。
でも課金アイテムは購入したいアイテムの代金を月々のネット使用両に上乗せする事で武器のデータをインストールして貰うと言うものだった。
前者は少し時間はかかるけどお金を貯めていつ何時でも気軽に手に入れる事が出来る、でも後者は実際のお金を使うし色々面倒な事もあるけど通常よりも強力な武器や期間限定のレア物も存在する。
だけど気をつけなければいけないのは課金アイテムは『魔力』を秘めているという所だ。
人間は『限定』とか『レア』と言う言葉に弱い、その人の精神の弱さにつけこみ、さらにゲームにのめり込んでいる人達は金銭感覚が麻痺してしまい、生活費を削ってまで課金していると聞く。
エミルが手に入れたのは大抵のモンスターに有効な光属性の効力を持つほか、毎ターン僅かづつ回復、さらに装備すると速度が向上すると言うものだった。
しかもこれはキック系の攻撃力を上げるという能力を持っていた。
特撮ヒーローが大好きなエミルにとってはお似合いの武器だった。
「これでバンバン戦うよ〜、期待しててね〜」
エミルは大いに張り切った。
これはエミルにピッタリだし、強くなるなら私達としても嬉しい事だ。
だけどある事が私の心を過ぎった。
それは私が口出しするような事じゃないし、個人の事に首を突っ込むのも野暮な話だ。
でも言わずにはいられなかった。
「エミル、それ結構高いんでしょ? 誰がお金払ってるの?」
「え? お爺ちゃん」
エミルは言った。
エミルは中学生だからバイトすらできない、当然と言えば当然だ。
何でも本当はお母さんに泣きついたのだけど、中間テストの点数が悪かった為に断られたからお爺ちゃんに相談してお金を出してもらったのだと言う。
「お爺ちゃん、アタシに弱いから〜」
エミルは目を細めて口の両端を上げた。
その瞬間、エミルの頭に小さな山羊の角、背中には蝙蝠の羽、腰から先端が三角形に尖った黒くくねった尻尾の生えたかのように見えた。
明らかに確信犯だ。
私は今朝の尾上先輩の事を思い出した。
尾上先輩は子供の頃から買いたい物が買えず、誕生日すら祝ってもらった事がないらしい。
給料も学費や生活費に消え、残ったとしても何かあった時の為に貯金しなければならないと言う。
「エミル、やっぱりそれって良くないよ」
「えっ? 何で? お爺ちゃんは良いって言ってくれたよ」
「いや、そうじゃ無くてさ……」
私は言葉に詰まった。
うまく言葉が出てこない…… エミルは直接言うと怒るし遠まわしに言うと頭に入らないからだ。
慣れない事はするモンじゃないな、私も人に説明するのは苦手だ。かたや人に頼んで任せるというのもどうだろう、レミとセンリでも同じ結果になるのは目に見えていた。
私が上手い言い訳を考えている時だった。
「あ、コロナちゃん」
私は呼ばれて振り向いた。
すると集会場の中からテリオさん(尾上さん)が出て来た。
作品名:ねとげ~たいむ・エキスパート!! 作家名:kazuyuki