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クエスト5,優しい狼



 お姉ちゃんのパーティとの合同クエストが終わり、私達は自分達の反省点を生かし、自分を見つめ直す為のクエストを受けていた。
 皆新しい武器を手に入れた事で有頂天になっていた事とお姉ちゃん達のアバターへの意識が焦りを生んでしまった。
 確かにお姉ちゃん達は個人で強い力を持っている、また同じクラスと部活の為に仲も良いしチームワークも取れている。
 でもあくまでお姉ちゃん達はお姉ちゃん達、私達には私達のやり方があるってだけだった。
 
 それから数日後の事だった。
 私は日直でいつもより早く家を出た。
「ふぁあああ〜〜……」
 私は口に手を当てながらあくびをする。
 早起きは苦手だ。
 そんな私のアバターが『コロナ』なんておかしな話だ。
 今日は部活の朝練の無いと言っていたお姉ちゃんは今頃高いびきで眠てるだろう、羨ましい事だ。
 そんなお姉ちゃんに朝食と昼食も用意してきた。1人作るも2人作るも同じだから別に構わないけど……
 ただ料理の腕もお姉ちゃんの方が上だった。普段から作ってる私よりたまにしか作らないお姉ちゃんの方が上と言うのも何だか悔しかった。
 この前もあまり物で料理研究家もビックリの創作料理を作ってしまった。
「はぁ、何で世の中不公平なのかなぁ……」
 私はため息を零した。
 するとその時だ。
 目の前の交差点から1台の自転車が飛び出してきた。
「きゃっ?」
 私は驚いて身をビクつかせて足を止めた。
 自転車も急ブレーキで止まった為に私も乗ってた人も怪我は無かった。
 すると自転車に乗っていた緑色の生地に肩から袖まで白の2本のラインの入ったジャージ姿の人が慌てて私を見て言って来た。
「ご、ごめんなさい、私の不注意で…… って、貴女」
「えっ? ああっ!」
 私は目を見開いた。
 その人はお姉ちゃんのゲーム仲間の人だったからだ。

 その人は2年生の尾上朋恵さん、私の先輩でお姉ちゃんのクラスメイト、さらにラクロス部のもう1人のエースだった。
 前回のゲームの一件以来、学年は違えど同じ学校に通う者として顔を合わせる事が多くなった。
 この人は1年の頃に体育祭の最終リレーで5人抜きをして自軍を逆転勝ちにしたと言う武勇伝があった。
 1年にも朋恵さんのファンがいてその噂は耳にタコが出来るくらい聞かされた。
 その朋恵さんが私と肩を並びながら歩いていた。今彼女の押している自転車の前の籠と荷台に括り付けてある籠には大量の新聞が入っていた。
 朋恵さんは新聞配達のアルバイトをしているのだと言う、私の学校はアルバイト禁止なのだけど、朋恵さんは学校側から許可を得て特別に働いていた。
「じゃあ朝はずっと配達してるんですか?」
「ずっとじゃないけどね、後夜はコンビニでバイトしてる…… こっちは週3回だけど」
 朋恵さんは苦笑した。
 朋恵さんの家は9人家族と言う大家族で、両親が共働きな上に自分も働かなければ生活を保てないほどだと言う。
 上には上がいる物だ。
 私の苦労なんて足元にも及ばない…… 朋恵さんは家事にバイトに学校に部活とゲームと言うハードスケジュールだけど、帰宅部でバイトもしてない私なんてまだ楽な方だった。
「まぁ、悪い事ばかりじゃないよ、バイトは社会勉強になるし、それに自転車で走るのもトレーニングになるよ、唯月が特性のアンクルバンド作ってくれたから」
 すると朋恵さんは自転車を止めるとジャージの袖とズボンの裾を軽く引くと手首と足首には黒いアンクルバンドが巻かれていた。
 このアンクルバンドにはそれぞれ2キロの錘が入っていて、バイドをしながら訓練をする事が出来ると言う。
 練習時間以外でも努力を惜しまないこの心意気…… お姉ちゃんの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたかった。
 
 尾上さんともっと話がしたいけど、彼女はまだバイトの途中だった。これ以上引き止めておくのは迷惑だ。
 学校まで直進すれば3〜4分でたどり着くけど、その数メートル手前に右に曲がる道がある、その一歩手前で尾上さんは足を止めると私に言った。
「私はこっちの方だからもう行くね」
「はい、じゃあまた学校で」
 私は一礼する。
 すると尾上さんは自転車に跨るとペダルを漕いで私に背を向けて行ってしまった。