ねとげ~たいむ・エキスパート!!
アイテムを集め、モンスターを倒しながら進んでしばらく経つ、私達は今までで1番大きなドーム状のフロアへやって来た。
このゲームのボスは2種類ある、1つはあちこち歩き回るタイプ、そしてもう1つは1つの部屋で私達プレイヤーが来るのを待っているタイプ。
前者は前回同様に鉢合わせできずに入れ違いで時間が削られる、さらにはクエスト受けて1分以内に鉢合わせって可能性もある。
でも今回は後者で助かった。何しろ準備万端だからだ。
「やっといたね」
私は『そいつ』に向かってサンダー・アックスを構える。
血管が生えた緑色の風船を幾つも繋いだようなブクブクに太った胴体、その隙間から赤黒い無数の触手が生えて天井に繋がったモンスターだった。
そしてそいつの名前が表示される。
『パラサイト・ブロック』
名前から分かる様に今回は寄生虫のモンスターだった。
するとレミがあからさまに嫌そうな顔をして言って来た。
「今回は寄生虫? 全く最近気持ち悪いのばっかりだわ」
するとセンリが説明して来た。
「寄生虫の中には寄生した生物の脳を支配して思い通りに動かす奴もいる、本人が自分の意思で動いてるつもりでも全てはその寄生虫の命令で動いてる」
「……何だか恐いね」
私は顔を顰めた。
ある意味じゃ幽霊やゾンビなんかよりずっと背筋が寒くなった。
するとエミルが言って来た。
「こいつが原因なら、ぶっ倒せばこの鯨モンスターは元に戻るんだよね?」
「それが今回のクエストって事でしょう、とっとと終わらせるわよ」
レミが言うと戦闘開始となった。
最初に出たのはモンスターだった。
パラサイト・ブロックは天井からぶら下がったまま無数に繋がっている緑色のパーツの一部が破けると緑の体液が水鉄砲の様に噴き出して私達を攻撃して来た。
私達はそれを交わすと今までいた場所が黒い煙を噴いた。これは毒液だった。
毒か麻痺かは分からないけど、迂闊に触れない方が良い、私はブレス用のミラー・シールドに装備を変更すると前方に出て皆の防御に回った。
でも近接格闘型のエミルは手が出せない、その代わりセンリが魔法を放った。
「ギガ・ファイザッ!」
センリは雷鳥の杖の先端をパラサイト・ブロック先端を向けた。
途端紅蓮の特大の火球が出来あがるとパラサイト・ブロック目がけて飛んで行き、轟音を立てながら爆発した。
『ギャアアアッ!』
パラサイト・ブロックは奇怪な悲鳴を上げる。
寄生虫だって一応は虫だ。となると火属性の攻撃が1番弱いと思ったんだろう、案の定効果は抜群だった。
でも確信を持てたのも束の間だった。突然フロア内が激しく揺れ動くと私達は立っていられずにその場に膝を付いてダメージを追った。
「うわああっ!」
どうやらモウディビックが揺れ動いたらしい。
するとエミルが聞いて来た。
「一体どうなってんの?」
「自分でやっておいてなんだけど…… 多分あいつが攻撃されるとモウディビッグもダメージを負う仕組みになってるんだと思う」
不可抗力と言うべきだろう、センリは少し申し訳なさそうに説明して来た。
パラサイト・インセクトはモウディビッグの脳を支配している為に痛覚まで共有している、つまりこのモンスターを攻撃すればダメージがモウディビッグに行き、最終的に私達に返って来るカラクリになっていた。
一方パラサイト・ブロックの方はセンリが攻撃で焼け爛れていたのだけど、直ぐにブドウの実が千切れるようにその場に落ちて消滅、本体には新たな体液袋が作り出されると体液が注入されて膨らんだ。
まるで『自分を傷つけたらこいつにも危害が及ぶぞ』って脅してるみたいだ。
「ようするにカマシって訳ね、タチが悪い……」
「カマシ?」
「な、何でも無いわ……」
レミは目を泳がせた。
それはそうとどうやって倒すかだ。
攻撃できないんじゃどうしようもない。
「センリ、何か手は無い?」
私は尋ねる。
すると待つ事数秒、センリは眼鏡越しに目を閉じて考えた。
「切り離すしかない、天井に繋がってる3本の触手を切り離せば良いと思う、落ちて来たら……」
「アタシがやれば良いんだね」
エミルは微笑するとレミと一緒に私達から離れた。
「準備が出来たら始めよう、それまではコロナ、私達で時間稼ぎ…… 私の後に攻撃して」
「分かった!」
私はセンリと前に出た。
作品名:ねとげ~たいむ・エキスパート!! 作家名:kazuyuki