ねとげ~たいむ・エキスパート!!
それからしばらく経った。
舵を取っていたセンリが言って来た。
「皆」
「センリ、どうしたの?」
「あそこ」
センリが指を差すと数メートル先の水面が突然盛りあがった。
途端船体が大きく揺れ動き、海の中からそれが現れた。
大きすぎて全体を見回す事は出来ないけど、黒ズミ1つ無い真っ白な巨大な頭に人間大はあろう角が背中の方まで生え並び、ギラついた赤い目のマッコウクジラに似たモンスターだった。
「こいつがモウディビッグっ?」
「よっしゃあ! 攻撃攻撃ぃ!」
エミルは嬉しそうに臨戦態勢を取った時、私はある事に気が付いた。
いつもならステージ・ボスの名前が表示されるのだけど、今回はそれが無かった。
するとモウディビッグは鋭い牙が5列に並んだ口を開けた。
『ガァアアア――――っ!』
下顎が水面に入り込んだ途端、海水が滝の様に口の中に流れ込み、私達が乗る船も吸い込まれて行った。
「ちょ、これヤバいんじゃない?」
「吸い込まれる!」
「アタシ達なんて食べても美味しくないよ〜」
「古人曰く『似ても焼いても食えない』」
「そんな事言ってる場合かぁぁ――っ!」
レミのツッコミも空しく、私達は船ごとモウディビッグに飲み込まれてしまった。
Nоw lоading
読み込みが終わるとそこは何とモウディビッグのお腹の中だった。
周囲は桜色の凄く大きな肉壁の空間、足元は脛までが黄色く変色した水に浸かり、私達が乗って来た船の残骸が残っていた。
「皆、無事ぃ?」
レミは私達を見る。
ステータスを開いてみると幸いHP・FP供に異常なし、毒などの状態にもなって無かった。
多分私がそうだから皆そうだろう。
「今回はモンスターのお腹の中がダンジョンか」
「らしいわね、まるでピノキオになった気分だわ」
レミはホーリー・メイスを肩にかけながら言う。
よく他のゲームや小説にも鯨だけじゃなくて大きな動物に飲み込まれてそこを舞台にするって言うシチューイションは確かにある、それらも多分ピノキオから取られたんだろうな。
となるとこのモンスターの体の中でイベントをクリアすれば出られるはずだ。
「神様って崇められたモンスターが暴れ出した原因もこの中にあるって事ね」
「んじゃ早速…… うっ!」
「エミル? あぐっ!」
いきなり私達の体にダメージが走った。
何とHPゲージが少しづつだけど減って来ていた。
すると私はここがモンスターの胃の中だって事を思い出した。
「なるほど、胃液に触れてると消化されてゲームオーバーって訳ね、分かりやすいわ」
「じゃあ何? 溶されたらアタシ達ウン……」
「エミル、下品」
「あっちに道があるよ、早く行こう!」
私が指を差すとエミル達と供に方に向かって走った。
段差がある足場を駆けあがって胃のフロアを脱出し、レミの魔法でダメージの回復を終えると細い通路にでた。
胃のフロアほど大きくは無いけど、私達4人が余裕で歩けるぐらいの広さの通路でも私達の行く手をモンスター達が防いだ。
8本の足にドリルの様な巻貝の殻で胴体を覆ったタコとヤドカリが合体したみたいなシェルトパス。
沈没して海の底で長い年月を得て魂を得た錨のモンスター、アイアン・ブレイカー。
海で死んだ者達が成仏できずに生きている者を海に沈めて仲間に引き入れようと言う舟幽霊、シー・ゴーストなどが私達の行く手を塞いだ。
出て来るモンスターはゴースト系である闇属性を除けば完全に水属性、つまり雷属性の武器や攻撃が有効だ。
私は雷の模様が入った片刃で柄の長い斧『サンダー・アックス』を、エミルも両手に雷の様にギザギザに曲がった鉤爪の取り付けられた手甲『サンダー・クロー』に装備を変更した。
私達はモンスターを倒しながら先へ進んだ。
しかしゲームとはいえ生き物の体内を歩きまわると言うのも中々エグイ事だった。
「まるで寄生虫になった気分だわ」
「ホントだね」
実際モンスターからみたら私達は虫も同然だろう。
忌々しく吐き捨てるレミに私は苦笑した。
こうなるとは分からなかったとは言え虫嫌いなレミが虫同然に歩きまわるのが憂鬱なんろうな。
正直私も早く終わらせたい気分だった。
大小幾つものフロアを回ると幾つもの宝箱が転がっていた。
開けて見るとお金やら武器やらがゴロゴロ入っていて、しかもレア・アイテムもしばしば混ざっていた。
「海竜の鱗、輝きの珊瑚、ディープ・マリン…… 良い素材ばっかじゃん」
「ったく、何でもかんでも飲み込みゃ良いって訳じゃ無いのに…… こっちにしちゃ大助かりだけど」
「古人曰く『災い転じて福となす』」
「でもクエスト・クリアしないと意味ないよ」
私は言う。
確かにこれでゲームオーバーになれば再びクエスト選択からやり直せるけど、ここで得たアイテム・お金・経験値は全てリセットされる。
仮に同じクエストを受けたとしても同じお宝が手に入るとも限らない。
「まぁ、何とかなるでしょ、その内歩き続けてればゴールに辿りつけるよ」
「古人曰く『犬も歩けば棒に当たる』」
「アンタ達ね、タイムリミットも忘れんじゃないわよ」
「この間は結構時間食っちゃったし、なるべく余裕は持ちたいよね」
「別に時間ギリギリでも勝てりゃ良いじゃん、貰えるモンは貰って置かないと」
「アンタね……」
お気楽に考えるエミルにレミは呆れる。
何しろエミルは夏休みの宿題をギリギリまでやらないタイプだからだ。
とは言え一理はある、お宝回収だって勿論大事だからだ。
換金すれば所持金にもなるし、錬金素材として装備を強化する事もできる、エキスパート・ランクになってモンスターも強くなってきたし、これからもっと強くなるのは目に見えている。
そうなれば従来の武器で戦うのにも限りがある、もっと強力な武器が必要だった。
作品名:ねとげ~たいむ・エキスパート!! 作家名:kazuyuki