ねとげ~たいむ・エキスパート!!
クエスト2,神の鯨
前回のクエストから一週間が過ぎ、もうすぐ10月になろうとしていた。
秋と言えばスポーツの秋、読書の秋、食欲の秋、芸術の秋とか色々あるけど、やっぱり私達はゲームの秋だった。
って言うか年がら年中そうだけど……
やって来たのは海のエリアだった。
今回受けたのは『荒れ狂う巨体』だった。
パラディスから南西に行った海域に小さな島が並ぶ『ライン諸島』に『モウディビック』と呼ばれる巨大な白鯨が生息していた。
現地の人は恵と糧を与えてくれる守り神として崇めていたが、突如モウディビックが暴れ出し、村に津波を起こしたり航行中の船舶を襲い沈めていると言う。
私達はギルドから船を借りてモウディビックを探しに海へ乗り出した。
「今回は鯨退治か」
「でもただの鯨が神様ってのもね、大げさすぎるんじゃない?」
「今回は水着じゃないんだね」
私は苦笑する。
以前ビギナー・ランクだった頃に受けた海賊船退治の受注条件が『渚の水着』着用と言う何ともサービス満載のクエストだったのだけど、今回は普通の装備だった。
いくらアバターで自分自身じゃ無いとは言え水着は恥ずかしかったのでホッとした。
そんな事を考えながら私達は周囲を見回した。
一向にモウディビックが出て来る気配は無い、ただ仮に出て来たとしてもどうやって戦えば良いのか分からなかった。
この船は戦闘用じゃ無かったからだ。
普通なら鯨相手なら捕鯨銛や大砲などを装備するのだけど、この船にはそれが無かった。
まさか泳いで戦えって訳でも無いでしょうに……
「そんなの簡単だよ、出て来たらぶっ飛ばせば良いだけだよ」
「あのね、相手は鯨なのよ、イルカならともかくそう簡単にできる訳無いでしょう」
「鯨もイルカも同じだよ、同じ魚じゃん」
「……エミル、イルカと鯨は哺乳類だよ、だから魚じゃないよ」
「え? そうなの? 海に棲んでるのに?」
エミルは本気で驚いた。
この空間に沈黙が走った。って言うか本当に知らなかったらしい。
するとセンリが説明して来た。
「エミル、鯨は元々陸上に棲むカバや牛に近い動物が海に適応して今の姿に進化した。鰭の骨組みを見ると昔は前足だったって事が分かる…… さらに体長3メートル以上が鯨でそれ以下がイルカになる」
「アンタね…… ホントに実家漁師なの?」
するとレミが本気で呆れながら言って来た。
するとエミルは口をアヒルの様に尖らせながら言い返した。
「うるさいなぁ! ウチは捕鯨やってないもん」
「って言うか捕鯨って今は禁止でしょ?」
「あれ? でも一部地域は許可されてるんじゃなかったっけ? よく分からないけど」
「アタシのお爺ちゃんが言ってたけど、昔は鯨より豚肉の方が高価だったんだって」
「今じゃ鯨の方が高いものね」
レミがため息を零しながら言って来た。
どちらにしろ今の私達には縁の無い代物だった。
するとセンリが説明して来た。
「捕鯨の歴史はとても古い、縄文時代の遺跡からイルカの骨の化石が出土されてるし、土器の底からも鯨の脊椎が発見されてる…… それに弥生時代も紡錘や矢尻等にも使われてる」
「アンタ、良く知ってるわね」
センリの説明にレミは真剣に答える。
するとセンリは続けて来た。
「さらに鯨は漁業の神様で、七福神の恵比寿と掛け合わされる事がある、元々鯨は魚を見つけ出す能力を持ってるからそれにちなんで神格化されたらしい」
「センリ凄い、頭良い!」
「エミルも実家が漁師なら覚えておくと良い」
「うん、お爺ちゃんに教える、伊勢海老の神様の正体が鯨だって」
「……ダメだこりゃ」
「あはは……」
レミは両手を上げると私もその後ろで苦笑した。
でもセンリの話しは面白かった。
ネット・ゲームは力を合わせてモンスターを倒したり素材を集めるだけじゃ無い、こうしてクエストの間に意見を出し合ったり会話を楽しむのも醍醐味の1つだった。
とは言う物の今回のクエストはモンスターと戦う事だ。出て来なければ何の意味もない、私達は船を動かしてターゲットを探索した。
作品名:ねとげ~たいむ・エキスパート!! 作家名:kazuyuki