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刻苦労知す

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ボクは、生まれました。兄弟たちと卵鞘に包まれて母なるものに保護されて育ちました。暗く狭い場所でもボクにとっては暖かな場所でした。

ボクは、クロの一族。
もともとこの地にはヤマト族だけが住んでいたようですが、冬がお嫌いのようで活動をされていなかったこともあるのでしょう。ボクの先祖が大陸から移り住んできました。
ボクたちは、冬眠もしないし、寒さにも順応しています。寒い時期のご馳走はひとり いや一族占め。ほかにワモン族も来たようですが、こちらも寒さは苦手らしく、住む場所を選んでいるようです。でも彼らは、ボクたちより大きい。寝る子は育つ?ということでしょうか……。

話は戻って。やがて幼虫のボクたちは、体の大きさに合うように服を変えたいところですが、ほかの虫たち同様に脱いで大きくなっていきます。そうですねぇ…… 数回… ん… 七、八回近くは脱皮したでしょうか。
そして、成虫になり翅もできました。二対四枚の翅です。
でもこの翅で飛ぶことは稀です。移動の時の時間短縮ぐらいの飛行です。
追いかけられたら全速力で走るほうがよっぽどいい。ひたすら走ります。
実は、この翅では地面から飛び立つことはできないのです。
何処にでも這い上がれる脚はあります。壁伝いに這い上がり移動していきますし、壁を下りていくことも難なくできます。でも行先を見失ったり、詰まった端から身動きができなくなったりしたら、上方から下方へと滑空するのです。

作品名:刻苦労知す 作家名:甜茶