遅くない、スタートライン 第5章
第5章(2)
愛先生は気を利かしたのか、俺が誘った歌舞伎公演の後にはタクシーを自分で停めて乗り込んだ。乗り込む時に…こう言った。
「後はお二人でね!口止め料として、時々報告してね。わかった?マサ坊&美裕ちゃん」と…
俺と美裕さんは、愛先生の言葉にちょっと赤くなった。
「ったく…愛姉は!いつも俺脅すんだ」
「で、でも」美裕さんは口を押えてクスクス笑った。
「でも何よ?」
「マサ坊さんが、かわいいんですね。歌舞伎の休憩の合間に…MASATO先生コーヒーを買いに行ってくれたでしょう?」
「うんうん。あ、そん時に何か言ったのか?」
「はい。手のかかる弟分だけど、かわいいヤツだからよろしくと」
「悪かったな。手のかかる弟分で!」MASATO先生がちょっと膨れた。
「はいはい…あぁ…何てお呼びしたらいいかな?」私はちょっと赤くなりながら、MASATO先生の顔を見た。
MASATO先生は、私の手を軽く握ってこう言った。
「俺…小さい頃からマサ坊とよく言われてたけど、美裕さんにはこう呼んでほしい」
私の耳元でささやいた MASATO先生だ。また私にも…
「こう呼んでいい?美裕さんのこと」
私は耳が赤くなるのわかった…でも、MASATO先生の手を握り返してお返事をした。
MASATO先生の手に力がちょっと入り、私はMASATO先生に軽く肩を抱かれ歩き出した。
俺は美裕さんの食物アレルギーがあるから、事前に調べておいた有機野菜レストランをリザーブしていた。美味しそうに食べてくれた。腹減ってたんだな。そういや…もう21時過ぎだ。歌舞伎公演が終わった時点で、20時過ぎだったからさ。
「ごちそうさまでした。すごっく美味しかった!キャロットとチキンのゼリー寄せ、パンプキンキッシュ」
美裕さんは満足そうに笑った。
「イエイエ…この前の看病のお礼も含んでます。ここのシェフも愛先生のダチシェフなんだ。あ…やっぱりそのカラーで似合ってる。俺…自分が思ってるイメージだけで、スタイリストダチのとこ行っちゃったから。…みっひぃ連れて行けばよかったかな?って後で思った」
「ほんと…いいの?このワンピース…私こんなカラー着たことなくて。ちょっと恥ずかしかった…アラサーだし」
「うん。俺の気持ちだからさ…あ、それ着てさ、またどっかごはん食べに行こう。みっひぃ」
「うん。また誘ってね…マサさん」
「さん…いらねぇよ。俺もつけてないでしょ」
「うん。マサ…でも呼びたいな。マサ君って呼んでいい?」ちょっと赤くなりながら俺の名前を言った。
「いいよ。ま、俺もミィちゃんが呼びやすいや。美裕と呼んでしまう時もあるかもしれない」
「いいよ」俺達は、テーブルの下で手を軽く握り合った。
さて、これからどうしようかな?俺的にはショットバーに行きたいけど、疲れてないかな?
「みぃちゃん、明日は朝から何か予定ある?」
俺は車のドアを開けた。今日は車で来てたんだ…歌舞伎公演の時は近くのパーキングに車を停めていた。
「特にはないけど?」
「俺のマンションまで先に帰って、行きつけのショットバーに行かない?アルコールもあるけど、みぃちゃんの好きなフレッシュマンゴーとかフレッシュオレンジのソフトドリンクあるんだ」
「うん。いいよ」俺の目を見て笑ってくれた、みぃちゃんだった。
俺とみぃちゃんは行きつけのショットバーに行き、俺もいつものハイボールではなく…みぃちゃんと同じフレッシュマンゴージュースを飲んだ。バーテンダーとウエィターはビックリしてたけどな。ま、俺が女連れて店に現れたからな。俺はここの行きつけのショットバーに女は連れてこない。ダチも連れてこない!ここは俺一人の場所と決めてるから、そんな俺が女連れてきたんだ。そりゃ…ビックリするわ。
俺とみぃちゃんはカウンターの端の席に座り、時々クスクス笑い、俺はみぃちゃんの頭軽く指で押したり、みぃちゃんは俺の腕軽く叩いて笑ったりした。
「マジっすよ。俺言うてるやん…この前から!よぉ…からこうてくれたな。1学年上だけで」
「たとえ5日でも、私の方がお姉ちゃんなの。もう一度計算してみぃ…ほら」
みぃちゃんは、自分のバックからメモ帳を取り出してお得意のカキカキをした。
「えっと…3月30日から4月4日は?」
「すんません。美裕お姉さま」俺はワザとうなだれ、頭を下げた。それを声を押し殺して笑うみぃちゃんだ。そんな俺を見て、バーテンダーとウエィターは驚きの表情してたさ。いや見てないけど、絶対そんな顔してるさ。
俺とみぃちゃんは店を出て、手をつないで歩いた。俺が先に手を伸ばした…
「明日も良かったら、遊ばない?みぃちゃんが疲れてなければ」
「うん。あぁ…でもマサ君は病み上がりでしょ。またぶり返すよ…風邪」
「大丈夫さ…今日はみぃちゃんエキスもおうたし、俺明後日まで急ぎの仕事ないんだ。後は年内2本だけショートのエッセイあるだけで、もう構成はできてるし、下書きもしてるんや。みぃちゃんは何かお急ぎの仕事あるん?」
「それならいいけど。私は特にありませんよ…しいて言えば家の片づけかね?2月に工事始まるから、1階の荷物片づけなきゃ」
「あぁ…そうやな。あ!よかったら男手要りません?」俺はみぃちゃんの顔を見て言った。
作品名:遅くない、スタートライン 第5章 作家名:楓 美風