遅くない、スタートライン 第5章
第5章(1)
私 樹 美裕は、MASATO先生のマンションを出てから嬉しさと恥ずかしさで、また顔が赤くなった。道行く人は私の顔を見てないだろうか?バックで顔を隠したいぐらいだった。だって、MASATO先生はキスはしなかったけど、玄関の中で私を腕の中に抱いたのだ。
「これなら、風邪移らないよね」と言った。私はうなづくだけで、精一杯で答えることはできなかった。MASATO先生もそれはわかってたみたいで笑ってた。
MASATO先生のマンションには今日は自転車で来たのだ。自転車ならバスの時間を気にしなくていいし、いい運動になる。冬だからこそ、運動しなければね。
私は自転車に乗り駅に向かった。
MASATO先生が1週間ぶりに養成上級クラスにやってきた。大事を取って1週間、学校長に休むように言われ大人しく寝ていたようだ。長年の疲れもあるだろう、ご本人はいいリフレッシュになったようだ。あぁ、私はその後はMASATO先生のマンションには行っていない。卒業課題の追い込みと養成上級クラスの課題に追われていて、家にこもりっきりだった。MASATO先生もそれはわかってるみたいで、ラインだけしてくれた。ま、それも今日までだけど!今日は養成上級スクールの課題を提出したら、後の1回の講義はほぼ自習状態だ。こういう時こそ、講師の先生に質問などまた生徒同士の討論もするみたいだ。私も参加するつもりだ。カフェスクールの卒業課題のレシピが愛先生の許可がでれば、カフェスクールも冬休みに入る。
俺は生徒の書いた課題を順番に見ていた。俺が休講している間に学校長が用意した課題で、今度は原稿用紙20枚のショートトリップを書く課題が与えられ、俺の考える限りでは、20枚という枚数は難しい。話がノッてきたらもう少し書きたいと思う。でも、20枚で終わらさなければならない。出席番号順の終わりから見ているが、みんなアップアップの状態だ。苦しかっただろうな…俺は添削と採点が終わった作品を横のトレーに入れた。3個に分類してるトレーは生徒側には見えないが、レベル分けしている。生徒は俺の作品を呼んでる姿に、手の動きを見ている。もちろん、課題を書きながらだ。
「うーん。」俺は思わず声がでた。俺の声に生徒達が顔を上げた…
「あ、ごめんな。大きい独り言だから、気にしないで」俺は生徒に片手をあげて謝った。
課題が書けた生徒は、後は自習時間だ。書きあがった生徒の中で採点が終わってる者は、俺が生徒のパソコン(1人1台にあるんだ)にメールで採点点数や感想やアドバイスを書き込んで送信していた。メールが届いた生徒は俺の顔を見つつ、メールの文章を読んでいた。さて、この人はどうしようか?この講義中には書けないぞ!と言う生徒が3名いた。その3名にはすぐにメールを送信した。もう少し待ってくださいと…
俺は例のごとく、カフェスクールに来ていた。愛先生に礼を言わなければと思い、片手には紙袋を下げていた。
「なんですか?MASATO先生…今日はおやつはありませんよ」笑いながら、愛先生に言われた。
愛先生も、俺と同様に生徒のレシピの採点をしていた。生徒は今…グループに分かれて卒業課題のディスカッションをしているそうだ。どうりで、調理室は静かなはずだ。生徒はこの上のミィーティングルームを使ってるそうだ。
「毎回毎回…おやつは食べに来ませんよ。俺だってそんな厚かましくないわ。あ、愛先生特効薬ありがとうございました。おかげでこの通り元気です」
俺は紙袋を差し出して、愛先生に頭を下げた。
「はいはい、おぉ…ゴディバの生チョコさんだ。ありがとう!特効薬がとっても効いたのか?」
「うん。愛姉ちゃん…」俺はニタッと笑った。
「愛姉ちゃんと呼ぶか。で、コクったの?」
俺は愛姉ちゃんこと愛先生に Vサインをした。愛先生は俺の頭をなでてくれた。
「で、それだけじゃないっしょ。何?」
「さっすがおわかりで。愛先生と美裕さん誘ってこれ行かない?」
俺はポケットからチケットを取り出した。
私はディスカッションが終わって、教室のロッカーに荷物を取りに来たら、愛先生に「おいでおいで」と手で呼ばれた。
「えぇ…今からですか?」
「何か用事ある?」愛先生は私の手を軽く叩いた。
「いや、ないですけど。私このカッコでマズイですよ」
愛先生は私のカッコを見た。
今日の私はカフェスクールがあるから、動きやすいカッコで来ていた。パティシエ時代に愛用していた作業ズボンにポロシャツを着て、その上にカーディガンを着て養成上級を受講していた。帰りはブルゾン着ればいいやって思ってたから。
「大丈夫!それも想定範囲内だわ。今…調達してるわよ。ダチスタイリストの下で。福田MASATOは」
「えぇ!スタイリストダチ?」愛先生は私の顔を見てニッコリ笑った。
作品名:遅くない、スタートライン 第5章 作家名:楓 美風