ツイスミ不動産 物件 X
こんなお客様の第一印象を確認した紺王子、「村の外れに、赤いとんがり帽子の洋館が見えるでしょ、あそこが今回の物件です」と本題へと入った。
するとご夫婦は双眼鏡で順繰り食い入るようにチェックし、旦那が先に「ヨッシャー!」と声を張り上げ、そのあと奥様が「あっら〜!」と発する。
クワガタはこのシチュエーションでの「あっら〜!」がどういう意味なのかいまいち不明だったが、まっえっかと「お気に召されましたか?」と訊く。
すると奥様は「確かにね、気には入りましたが、もっと近くに行って現地確認したいわ」と仰る。
これは当然のこと。
されどもだ、何はさておき伝えておかなければならないことがある。
ここは不動産屋大ベテラン、笠鳥凛子課長の出番。
「実はですね、あそこの橋の袂(たもと)に年代物の建物があるでしょ、川越の館(やかた)と呼ばれてるのですが、橋を渡るに当たっては、あそこで2週間隔離され、その後のpcr検査が陰性でないと川を越えることはできないのですよ」
このいきなりの半端じゃない説明を受けて、ご夫妻はポカーン。
さらにだ、不動産屋にはもっと告知しておかなければならないことがある。
上司が部下に目配せする。これを受けたクワガタ、村に住むに当たっての10条件を淡々と述べる。
1.3密は徹底排除
2.人と会う時はマスク着用
3.毎日体温測定及び手洗い/うがいは励行し、記録を役場に報告
4.手に触る物は毎日アルコール消毒
5.公共物は村民で自主管理、また義務を負う
6.村に入る物資はすべて検疫される
7.無菌維持のための管理費は一世帯当たり月3万円
8.1週間に1度pcr検査を受診
9.陽性の場合、かつ非協力者は川越の館に戻す
10.無菌ビレッジへの橋の通行料は『1回6万円』
作品名:ツイスミ不動産 物件 X 作家名:鮎風 遊