ツイスミ不動産 物件 X
これらを聞かされた老夫妻、ただただ沈黙。
このままでは商売が成り立たない。そこで切っ掛けを作ろうと、紺王子が笑みを絶やさず尋ねる。
「終の棲家ととして最高だと思いますが……、何か気になることありますか?」
すると旦那が「うーーーん」と長く唸り、顎に手を当てたまま「その最後の……、6万円て、何か意味あるの?」と真剣な眼差し。
まさにここは――、キモ。
したがって笠鳥課長の出番。
「実はこの地は真田家の縁(ゆかり)の地、ご紋は六文銭、昔は川の渡し賃は6文だったのですが、今は令和となり、値上がって6万円なんですよね」
ツイスミ不動産としては、これこそ話しておかなければならないことだ。
その結果、やっぱり、四人の間に重たい空気がドローンと淀む。
しかし90秒後、それを吹き飛ばすかのように、老紳士が「あはははは」と大笑い。
さすが酸いも甘いもの幾星霜を重ねただけの言葉を、その後発する。
「なるほど、この川は――、三途の川ってことなんだね、ということは、あそこの無菌ビレッジは桃源郷でもない、またシャングリラでもない、――、極楽浄土なんだよ、ヨッシャー!」
最後に口癖が飛び出したということは、主人はどうも気に入ったようだ。
だが、奥様は違った。
「あなた、ちょっと待って。あの世の沙汰も……、金次第なのよ。ねえ、ツイスミ不動産のお二人さん、あの無菌ハウスは――、おいくらなの?」
こんな直球を受け、カサリンもクワガタも身が引き締まる。
上司がいつも通り直立不動の部下の向こうずねあたりを蹴飛ばす。
これでハッと我に返った自称イケメン・紺王子宙太は川向こうの無菌ハウスに向かって声を張り上げるのだった。
「無菌ビレッジ、いや、極楽浄土にある無菌ハウスのお値段は、――、3千万円!」
これに奥様から1オクターブ高い奇声が1つ飛ぶ。
「あっら〜!」
さてさて皆さま、とにかく無菌ですよ。
この安心安全の終の棲家……、買いますか?
作品名:ツイスミ不動産 物件 X 作家名:鮎風 遊