ツイスミ不動産 物件 X
オッオー!
これこそメガ級パワハラ、いつか訴えてやると心に誓い直すが……。
うーん、仕事への情熱、それはオバハンの方が熱いと再認識するしかなかったのだ。
そんな時にドアーが開き、大きめのマスクをしたシニア・カップルが入ってきた。
もっと業務に励めと上司からの活入れがあったばかり、ここは即座に、だが丁寧に「世間は出歩き自粛、そんな折にも関わらず、ようこそツイスミ不動産に、どういう物件をお探しですか?」と紺王子が質問する。
この一見マジメ・ボーイの圧に少しばかり後退りをした紳士、きっと百戦錬磨なのだろう、姿勢を正し、「ヨッシャー、これは話しが早い」とパンと手を打つ。
されども、ここからガンガンと物申されるかと思いきや、「探してる物件は……」と尻切トンボのまま横の女性をチラ見する。
この流れをデスクから見ていた笠鳥課長、やっぱりプロ中のプロ、このカップルは長年連れ添った夫婦に間違いなし。しかも夫人の方が主導権を握ってると読み切った。
この結末として、若造・紺王子の背後から割り込み、「奥様、そうなんですよね、ご夫婦の終の棲家はご内儀のお気に入りでなければ成立しませんわ、何なりと仰って下さい」と。
またかよ。
紺王子はこのボスの〈いっちょ噛み〉に心が萎(な)えたが、最近は姉御の客へのアプローチが『よっ、日本一!』と思えるようになってきたし、それを奪っちゃうのは可哀想、……なんちゃって。
そこで紺王子は上司のアプローチに乗っかって、「奥様のご希望の終の棲家は……、お花一杯、それとも愛犬と楽しく過ごせるお家でしょうか?」と誘い水を向ける。
だけれどもこの呼び水に奥様は一瞬ムッとされ、「あっらー、まったく違うわ」と100%否定。
これにベテラン課長も育成途中の部下も、いかにも驚いた風を装い、「じゃあ、何でしょうか? お聞かせ下さい」と顔面を前へと突き出す。
この一所懸命さが奥様には伝わったのか、姿勢を今一度正され、力強く一言だけ発せられたのだ。
「無菌ハウスよ!」と。
作品名:ツイスミ不動産 物件 X 作家名:鮎風 遊