ツイスミ不動産 物件 X
不要不急の外出を控えましょう!
新型コロナウイルス感染症の世界的な流行で、桜花爛漫(おうからんまん)の時節だというのに世の中の経済活動は冷え切ってしまった。
ここツイスミ不動産もその例外ではない。
「カサリンさま、客は来ないし、通勤もいつコロナにかかるか危ないし、我が店舗もそろそろテレワークにしませんか?」
自称イケメン・紺王子宙太が上司の笠鳥凛子課長に提案する。
「コラッ、紺宙(こんちゅう)のクワガタ! 私の愛称はカサリンではなく英国王室風のキャサリンだといつも言ってるでしょ、そう呼べ!」
課長が太黒縁の眼鏡をマスクの上までずり落としたまま、こう注意してくるものだから紺王子は「ちゃいまんがな」と首を傾げる。
されどもだ、給料の査定をする上司、ここはやんわりと。
「あのお、呼び名の件ではなく、私の提案はコロナ感染がらみの自宅滞在業務でありまして……、キャサリンさまは少しばかり論点が捻(ねじ)れてるような……、気がするのですが」
これに笠凛課長は今度マスクをズルズルッと顎まで引っ張り下ろし、現れ出た紅過ぎる唇を尖らせて言い放たれたのです。
「お前は紺宙のクワガタだろ、低脳な虫がコロナにかかるわけないでしょ。今、この世の中で一番幸せなオスなんだよ。だから、巣ごもりは必要なし、虫なりの粉骨砕身、――、もっと業務に励め!」
作品名:ツイスミ不動産 物件 X 作家名:鮎風 遊