ツイスミ不動産 物件 X
そんな時にドアーが開き、頭から雪を被った老夫婦が入って来た。
キャサリン様は「アーリー・クロージングは来年に持ち越しよ」とカシコぶった英語を冒頭に置いて結論し、その後一瞬で微笑む観音様に大変身。
「お探しなんでしょ、終の棲家を」と確認しながら、タオルで客の肩の雪を払ってらっしゃいます。
実に素早い。お見事!
だがこれだけでは終わらなかった。
「そこのスタッフは紺王子宙太、渾名はクワガタです、なぜならコンチュウ(紺宙)だから、オホホ…、が担当させてもらいます」とカウンターへあれよあれよと誘導。その途中で、呆然棒立ちの紺王子に蹴りを一発食らわす。
「イテッ、このオバハンの首いつか締めたろ」とクワガタは決意するが、一応若手優秀どころ、その殺意に蓋をし、痛みで歪んだ笑顔で「どんなツイスミをご希望でしょうか?」と客に問う。
数多の艱難辛苦を乗り越えてきたのだろう、奥様が「パワハラに部下ハラ、だけど結構名コンビかもね」と表情を緩め、「さっ、あなた」と肘で旦那の横腹を鋭利に突っつく。
この妻ハラに夫はシャキッ。そしてたった一言、「504号室を」と。
作品名:ツイスミ不動産 物件 X 作家名:鮎風 遊