ツイスミ不動産 物件 X
外が暗い。
なぜと自称イケメン・紺王子宙太(こんおうじちゅうた)が窓越しに目を懲らすと、牡丹雪がボタンボタンと道路に落下してるではないか。「氷河期到来か」と大袈裟に吐き、視線を室内へと戻す。
それからおもむろに「そうだ、今夜は鍋にしよう、だけど準備に時間が掛かるん…、ですよね」と語尾強調の独り言を。
客足が途絶えた営業所、否が応にも上司の耳に入る。
「クワガタ、何が言いたいのよ?」とルージュ濃いめの口を尖らせた。だが紺王子にとっては思う壺、さらりと提案する。
「笠鳥凛子(かさとりりんこ)課長、いやカサリン様、早仕舞いしませんか?」
シーン。
凍り付いた静寂が…。
約30秒経過し、突然女性課長のヤケに青い瞼の上の眉毛が逆八の字に。
「アータ、私の源氏名はカサリンでなく、英国王室風のキャサリンでしょ」と。
えっ? クワガタには微妙な違和感が…。
「あのう、課長、怒りのポイントが若干ズレてませんか。普通ここは渾名ではなく、早仕舞いの方だと思いますが」と。この指摘に、寒空に突き刺さるほど鋭利な声で女鬼が吠えたのだった。
「バッ・キャロー!」
作品名:ツイスミ不動産 物件 X 作家名:鮎風 遊