ツイスミ不動産 物件 X
このシニアカップルが求める終の棲家は、504号室。
こんな要望初めてだ。
なぜ?
時間はまるで流しそうめんのように、時々竹の節に突っ掛かりながらもサラサラと流れて行く。ああ、504号室というそうめんが箸に絡まな〜い!
冬だというのにこんな事態に陥った不動産屋に、笑顔が消える。
この様子を見て、老紳士が助け船を出す。
「若い頃に、504号室に住んでたんだよ」と。
これですべてが読めた。「その部屋は快適だったのですね」と紺王子が確認をする。
だが答えは違った。「いつも霧が掛かったような汚い部屋でした」と。
なんで?
首を傾げる不動産屋、これはスマンコッチャと思った爺ちゃんが丁寧に追加説明する。
「504号室は妄想が次から次へと湧き出る、そう、物語の泉なんじゃ。退職後作家として精進してきたが、最近ネタ枯れでのう。そこで最後の足掻き、妄想力場の504号室で執筆三昧の暮らしをして行きたいんじゃ」と。
不動産屋には作家業の苦しみはわからない。だが何はともあれ顧客第一。責任者の笠鳥は「物語の泉、その504号室を探しましょ」と手打ちしたのだった。
作品名:ツイスミ不動産 物件 X 作家名:鮎風 遊