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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Fortunate one

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 それに、何も持っていないわけじゃない。少なくとも、わたしは家族の写真と死ねる。
 もしツグミを誘えたらと思うけど、そんな無謀な計画に引っ張り込む勇気はなかった。ただ、別れの挨拶ができるなら、それは夜の海以外にないと思っていた。そんなときにツグミから声をかけてくるなんて、すごいことだ。
 ツグミがロビーで待っていた。わたし達は裏口から抜け出して、遊歩道を歩いた。夜の風は昼と同じ空気とは思えないぐらいに涼しかった。ツグミは一度立ち止まって後ろを振り返っただけで、あまり話さなかった。岩の間を抜けた先に、いつもと同じように、月に照らされた海が広がっていた。わたしは思わず足を止めた。
 ヒバリが立っていた。お洒落な服に着替えていて、別人みたいに見えた。ツグミは足を止めずにもう数歩歩いたところで、ゆっくりと立ち止まるとわたしを振り返った。わたしは、確信がないままヒバリに言った。
「どうして、メジロを殺したんですか?」
「犯人探しとか、もういいじゃん」
 ヒバリは面倒そうに言うと、ツグミの体を上から下までぽんぽんと触り、うなずいた。何か武器を隠していないか確認しているということに気づいたのは、ヒバリが自分の鞄から、あのシルバーの拳銃を取り出したときだった。わたしがクジャクに言った、痣の話。あれはすぐにヒバリに伝わるはずだと思っていた。ふたりがわたしを殺そうとするとき、あの拳銃で身を守れたらと思っていたけど、ツグミまで一緒だったなんて。ヒバリは言った。
「あたしが殺したけど、それが何?」
「理由が知りたいんだと、思いますよ」
 わたしとヒバリの間に立ったツグミが、冷たい声で言った。ヒバリは拳銃を慣れた手つきで構えた。銃口と目が合って、わたしは一歩後ずさった。ヒバリは言った。
「あたし、今日で引退なの。引退って言うとあれだけど、モズと出て行く」
 それは、メジロを殺す理由と関係がなかった。わたしが頭で思ったことを読み取って、ヒバリは続けた。
「でも、それってルール違反なんだ。バレたら一発退場。みんな気づいてたと思うけどね。メジロが一人前になっちゃったら多分終わりだって、クジャクに教えてもらったの。彼がもうちょっと早く決心してくれたら、別に殺さなくてもよかったんだけど。タイミングの問題だね」
 そんな馬鹿みたいな理由で、人を殺すなんて。わたしの怒りに気づいたのか、ツグミが少しだけ身を離した。ヒバリが言った。
「これ、このまま撃てるの?」
「はい。二メートルです」
 ツグミは、返り血が飛ばないギリギリの距離を知っている。ヒバリは言われた通りに、わたしにつかつかと近寄った。二メートル先だけど、目の前に感じた。ヒバリは言った。
「あたしは出て行く。あんたは、メジロをバラバラにしたショックで自殺する。てかさ、よくできたよねあんた。ケロッとしてたし。いつも思ってたんだけど、ちょっとネジが緩んでるわ。ツグミみたいに言いなりになってくれないし、クジャクには告げ口するし。ほんと何なのあんた?」
 人を殺す前に、ぽんぽんと出てくる罵倒の言葉。わたしは、もはやヒバリを人間として見ていない自分を可笑しく思った。
 まだ何かを言おうとしているヒバリを遮って、ツグミが言った。
「カラス、よく聞いて」
 今さら、何も聞きたくなかった。でも、ツグミはわたしの目を見て言った。
「半分こだよ」
 一瞬、頭にチーズケーキが浮かんだ。ヒバリが引き金を引いた。乾いた音が鳴って、わたしの目の前の景色は、そのままだった。ヒバリはもう一度引き金を引いたけど、何も起きなかった。ツグミの言葉が頭の中で意味を持って、わたしはヒバリに体当たりした。仰向けに倒れたヒバリの手を両手で掴み、じりじりと体重をかける。銃口がヒバリの頭に向き、わたしは用心金の中に親指を滑り込ませた。するりと引き金が動いて、また同じ、乾いた小さな音が鳴った。
「馬鹿じゃないの、空なんでしょ」
 ヒバリは拳銃を諦めて手を離すと、言った。その文句の半分は、ツグミに向いていた。もう、わたしには分かっていた。空なのは、最初の三発だけ。立ち上がったわたしは、まっすぐヒバリの顔に拳銃を向けて、言った。
「半分はね」
 ヒバリの顔が凍りついた。わたしは引き金を引いた。銃声で耳が聞こえなくなって、ヒバリの鼻と目から血の塊が噴き上がった。
 ツグミはわたしの手から銃を取ると、言った。
「急ごう」
 わたし達は、ヒバリの死体を地下に運び込んだ。ツグミと話したかったけど、先にやってしまわないといけないことは、分かっていた。
 ヒバリの体を台の上に乗せると、ツグミはエプロンを巻いた。わたしが止めようとすると、首を強く横に振った。
「こうすることになってるの。早くしないと、クジャクが帰ってくるわ。あいつ、アリバイ作るためにモズと外に出てるの」
 わたしは自分もエプロンを巻いて、チップソーの電源を入れた。ツグミは拳銃のシリンダーを開けると、わたしが撃った一発以外の弾を抜いた。そして、傍らに丸められたヒバリの服を探ると、新しい弾を抜き出して、五発を装填した。
「自殺する人が、何発も撃つわけないし」
「どうして助けてくれたの」
 わたしが言うと、ツグミは拳銃を持ったまま笑った。
「裏切るわけないじゃん。怖がらせてごめんね」
 ヒバリが撃とうとした二発と、わたしが空振りした一発。ツグミはその三発の後ろ側を見せた。
「雷管の中身が空っぽなだけだよ。結構大変だった。ヒバリは弾とか全部チェックすると思ったから、こうするしかなかったの」
 言いながら服をゴミ袋の中に押し込んだツグミに、わたしは言った。
「ツグミ、目を閉じて」
 チップソーの刃をヒバリの体に当てて、全速力で回した。数十分で、頭から下がバラバラになった。髪を全部そり落とすと、銃弾で顔の半分が破壊されたヒバリの顔は、誰なのか分からなくなった。ノックの音が聞こえて、ツグミが凍りついた。
「ツグミ! 終わった?」
 クジャクの声。わたしが隠れようとすると、ツグミが手をつかんだ。わたしの指から指輪を引き抜くと、手首から先だけになったヒバリの手を拾い上げて、薬指にはめこんだ。刃物を並べた棚の後ろにわたしが隠れると、ツグミは言った。
「どうぞ」
 棚の細い隙間から見ていると、ドアが開いて、クジャクとカワセミが入ってきた。クジャクは準備していたはずが血の匂いに耐えられない様子で、露骨に顔をしかめた。カワセミは冷静な表情で、まるで別人のようだった。
「もうバラしちゃったの?」
 クジャクは呆れたように笑ったけど、血は苦手なようで少し涙目だった。
「すみません」
 ツグミが言うと、クジャクは答えずに拳銃を手に取って、シリンダーを開けた。五発がバラバラと手の中に落ちて、その一発一発を確認したクジャクは、薬室に張り付いて取れなくなった一発の雷管がへこんでいる様子をじっくり見つめた。クジャクは、誰も信用しない。その執拗な確認の仕方を見ていると、自然と鳥肌が立った。手首の先に光る指輪をじっと見つめていたクジャクは、大きな目を一度閉じた。
「かわいそうな子」
 ヒバリのことかと思ったけど、それは違った。クジャクはわたしのことを言ったのだ。
「じゃあ、残りもお願いね」
作品名:Fortunate one 作家名:オオサカタロウ