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柴犬まるの酒屋日記

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智樹はあれから何とか【ご挨拶】できるようになった。
でも相変わらず、【営業】とか【売込み】は不得意やった。
母ちゃんも智樹の性格をわかってるみたいで。
「時間かかってもエエ‥1個ずつデキるようになったらエエから」
と智樹には言うてたけどな。

母ちゃんは智樹が帰って来て、少し落ち着いたみたいや。
毎日泣かんようになった。イヤ‥泣いてる時やないと思ったんやな。
腰の方は力仕事さえせんかったら、今の所‥大丈夫や。
重い物は智樹が持ってるから。

あぁ‥智樹ってな。
ボォーッとしてるけど、結構優しい所あったわ。
普段はレジの横に、ノートパソコン置いてなんかしてるけどな。
母ちゃんがビールケースに手をかけたら、
ノソッと立ち上がって‥
「俺が持つから」と言ってビールケース持つんや。
優しい所あるやないか。
オイラはちょっと智樹を見直したな。

父ちゃんがおらんようになってから、2ヶ月が経った。
店の経理も父ちゃんがやってた。父ちゃんが台帳に書き込んで、
よぉ店のレジの所で計算機叩いてたな。父ちゃんがおらんようになって、
母ちゃんがソレをするんやけど。母ちゃんにも不得意な事があったんやな‥

接客は母ちゃんは得意やけど、計算はあまり得意やなかったな。
父ちゃんが書き残した台帳見てはため息をついてた。
「まるぅ‥母ちゃんこういうの苦手でね。父ちゃんに殆ど任せてたから‥もっと父ちゃんに聞いとけばよかったわぁ」
(母ちゃん‥落ち込むなよ。母ちゃんだって一生懸命やってたやんか)
オイラは母ちゃんを元気づける為に、尻尾を振って母ちゃんの手を舐めた。
「ありがとう‥嘆いてても始まらへんな。本でもこうて勉強するわ」
母ちゃんは台帳を閉じて、買い物に行った。

智樹が入れ違いに帰って来た。智樹は今日は午前中だけ出かけてたみたいや。
前の会社の手続きが残ってて、その用事を済ませて来たみたいや。
智樹が帰って来たから、オイラは尻尾をふってやった。
(智樹ぃ!お帰り)
「あぁ‥まるぅ。ただいまぁ‥あぁしんどう。役所は時間かかるわ」
智樹は疲れ切った顔で、レジの横にある椅子に腰を下ろした。
「ん‥これ店の出納帳か?どれどれ」
智樹は興味深そうに台帳のページを指でめくっていった。

数日後の事やった。母ちゃんがビックリしてた‥
(母ちゃんどないしてん?)
オイラは母ちゃんの膝に前足をかけて尻尾を振った。
「まるぅ‥コレ智樹が作ったんかな?」
母ちゃんは透明のファイルを指さしてオイラに言った。
母ちゃんが指さしたモンは‥この店の経営状態がわかるモンやった。
オイラは犬やからよぉわからんけど、人が見たらすぐわかるモンやった。

智樹が配達から帰って来た。
「母ちゃん!4丁目の丸岡さんがな‥」
「丸岡さんが何なん?」
母ちゃんは、ファイルの事を智樹に聞こうと思ったけどな。
その時は聞けんかった。

夕方になってやっと‥母ちゃんは智樹に聞く事ができた。
母ちゃんが見て驚いたモンは、やっぱり智樹が作ったんやって。
智樹は東京でパソコンの【システム・エンジニア】してたんやって。
システム・エンジニアって何やねん?オイラようわからんけど!

そういや‥智樹は午前中休んで、出かけた後から何や‥
レジの横の机で四角の箱でゴソゴソしてたな。
(あぁ‥これは後でノートパソコンやってわかった)
これ作ってたんか!また‥智樹が作ったモンが、徐々に店の経営にプラスになっていた。それはもうちょっと後の話やけどな。

「母ちゃん‥俺は営業とか新商品の売込みはもう一つできんけどな」
母ちゃんに自分が作ったモンを指さして一生懸命説明した智樹やった。
母ちゃんによく分かるように、説明してる智樹の顔は結構カッコよかったな。
アイツ‥あんな顔をするんや。オイラちょっと見直したな!
それから、智樹は時間があったらパソコンの前に座っては色々と作った。
レジの下から何や音がするぞ。

「おぉ!できたぁ‥まるぅ見てくれや」
智樹がレジの下から出したモンは、来週からうちで新発売するワインやった。
業者さんが試飲にって、智樹と母ちゃんにワインの入ったコップ勧めてたな。
オイラも呑みたかったけど、あぁオイラはアカンか。犬やし‥

智樹の作った【広告】はオイラが見ても良いデキやった。
また広告の中の柴犬はオイラがモデルか?いつの間にオイラの写真撮ったんや。
智樹ぃ!

智樹の作った広告が好評で、そのワインはよぉ売れた。
母ちゃん喜んでたな。智樹やるやん‥
智樹の得意な事ってこういう事かぁ。
これでうちの店の役割が決まった。

営業・売込みは母ちゃん・広告・店の経理は智樹や。
2人とオイラ1匹で力合わせて、頑張ろうな。
オイラも頑張るで!

作品名:柴犬まるの酒屋日記 作家名:楓 美風