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柴犬まるの酒屋日記

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智樹が東京から帰って来た。
母ちゃんは父ちゃんおらんようになってから、
1人で頑張ってたけど限界が来たみたいや。
また心細かったのもある。
酒屋をして約30年‥父ちゃんと二人で頑張って来たからな。
その気持ちはわかる‥

その智樹は‥
言うちゃ悪いけど、ホンマに父ちゃんと母ちゃんの息子か?
と思うほど、智樹は父ちゃん達と正反対やった。
まず性格や。
・暗い
・無口
・ボォーッとしてる。
・笑わん

父ちゃんと母ちゃんは店におる時は、
始終笑顔やったで。客商売やもん‥
無愛想では務まらんし。
今日も母ちゃんに怒られてた。

「お客さんが来たら、笑顔や!笑ってみ」
智樹は頭をポリポリかきながら‥
「い、い‥らっしゃい‥ませ」
それも顔を引きつらせながらや。

「誰が頭かきながら挨拶するんや!」
母ちゃんは声を張り上げた。
「ご‥ごめん。俺‥技術畑やから!そんなすぐにできんわ」
「早よぉ慣れて!商売はな愛想よぉないとあかんねんで」

母ちゃんは上着のポケットから手鏡を出して智樹に渡した。
「練習しぃ!ほら」
「え‥エェ!」
「エェちゃう!私が病院から帰って来る間ずっと練習や。エエな」
母ちゃんはそう言って、病院に行った。

智樹は手鏡を持ったまま‥ため息をついた。
「母ちゃん‥俺の性格わかってるやん。俺はそんなんデキひんって」
智樹はうなだれたが、頭をプルプルと振って顔を上げた。

「‥‥あかん。そんな事言うてる場合ちゃうよな」
(うんうん。そうや‥頑張れ!智樹)
智樹は手鏡を持って、笑顔の練習を始めた。

さて‥智樹の事もあるけど。
母ちゃんの心配はもう一つあった。これからの事や‥
【営業】とか【新規開拓】って言うんか?
お客さんとこ回ったり、新しいお客さん増やすのん?
そんな事は、父ちゃんがやってた。
母ちゃんもデキんことはないけどな。
うちの店のお客さんは、父ちゃんが頑張って増やしたんや。
もちろん母ちゃんも頑張ったで。父ちゃんがいてた時みたいに、
そのお客さん達を繋ぎ止める事ができるかどうかや。
それができんかったら、うちの店は潰れるからな!
智樹!頑張れよ。

智樹は手鏡を持って練習した甲斐があって、
まだぎこちないけど、引きつり笑顔でご挨拶ができるようになった。
でも‥ご挨拶だけじゃいかん。うちは酒屋!商品を売らんといかん。

智樹はホンマ苦手なんやな。こーういうの‥
お客さんと話が続かへんのや。
「いらっしゃい」は言えても‥次の言葉すぐに出ん。
挨拶だけじゃ、商品は売れん。新商品もPRせんといかん!
レジを打つので精一杯でレジの画面しか見てない。
智樹ぃ‥もうちょっとしっかりしろよ。
オイラは智樹がそんなんやから、オイラも大変やねん。

(また来てな!)
【ワンワン】鳴いてと尻尾も振ってお客さんをお見送りしている。
レジが終わった智樹は、また下を向いてため息をついてる。

智樹ぃ!お客さんが帰る時に言わなあかんやろ。
【またお願いします】って。もぉ世話やける男やな。
オイラも母ちゃん同様にため息をつきたくなったわ。
コイツには! 
作品名:柴犬まるの酒屋日記 作家名:楓 美風