HAPPY BLUE SKY カッジュの卒業
部室の中では、アーノルド少佐が部員に言った。
「もう‥あまりカッジュを泣かせるなよ。部長室で泣いて、ここの部室でまた泣いたら脱水症状を起こす。ね!スポーツドクターのミラド先生」
「うん。そのまま隣の陸軍病院に搬送決定だぞ。クゥ中佐が泣くぞ‥アイツさ!あぁいう性格だろ。カッジュが部を退室するまでは【けじめ】として自粛してるんだ。デートも!お泊りも‥あぁ!お泊りはまだか」
その声に先輩達は笑った。
クゥ中佐はドアの外で、ミラド先生達の笑い声を聞いて手をワナらせていた。私も悪いと思ったけど、口を押えて笑ってしまった。クゥ中佐にジロッと睨まれたのは言うまでもないが。クゥ中佐がドアを開けて入り、私も後に続いて部室に入った。ミラド先生・先輩達の笑い声が止まった。
「約4年間‥‥ありがとうございました。クゥ中佐・アーノルド少佐・ツィッター主査・ディック主査‥先輩方!本当にありがとうございました。立野一美‥この部室で4年間‥すごく楽しかったです。怒られた事・褒めてくれた事・教えて頂いた事を‥私は忘れません。またそれを‥」
カッジュの言葉途切れ、涙がまた溢れてきた。また‥ツィンダー・ヨル・ゲイルが肩を震わせていた。ヨルはメガネの中に指を入れて涙を止めようとしているが‥涙は止まらない。その涙がスーツの襟を濡らした。ツィンダーは涙を拭う事もできなかった。もうヤツの思考回路は完全に止まってしまったようだ。ゲイルも同様だ‥メイクしたマスカラが落ちて、黒い涙が頬を濡らしていた。
カッジュはデスクワーカーのダンに肩を軽く叩かれた。カッジュは軽く目をこすりながら言った。
「申し訳ございません‥日本にいるより、N国に来てからどうも涙腺が弱くなっちゃって。日本では泣く事も怒る事もできなくて、心が固まっていた私です。この部に入隊してから、少しずつだけど、その固まった心が解れて来た感じがします。今は‥自分の言いたい事も言えて、相手の言う事を聞く耳も持てるようになりました。それが‥私が4年間で習得した物だと思います。いや‥それ以上の物をこの部で頂きました。本当にありがとうございました」
カッジュは言い切って、また下を向いてしまった。
アーノルド少佐が体を震わせて泣くカッジュの頭を軽く腕で抱きしめた。また‥アーノルド少佐も目が潤んでいる。
「こちらこそ‥ありがとうだよ。キャシャなボディしてさ、見せるパワーはモンスターレベルでさ、君のおかげで諜報1班は4年連続検挙率1位で、俺も鼻が高かったよ。4年間‥あの前少佐の元で頑張って来たんだ。次の部署でもその頑張り見せてやれ‥グチりたくなったらいつでもおいで」
カッジュは‥震える頭で何度もうなづいた。同様にビリー主任やツィッター主査・ディック主査の胸の中でもカッジュは泣いた。第1TOPはひとしお‥カッジュとの別れが辛いと思う。俺とタッグを組んでカッジュをエージェントとして育ててきたから。
「ほら‥もう泣き止めよ。目がとけちゃうぞ。とけたら‥悲しむ人がいるぞ」
ディック主査は手に持っていたタオルで、私の目を軽く押さえた。ツィッター主査は私の肩を軽く叩き、目線でうなづいた。ビリー主任が私の手を軽く叩いて‥
「ボスに最後のご挨拶してやれよ。あの人‥後ろ向いているけどな。見てみろ」
クゥ中佐は後ろを向いて窓を見ているが。‥‥手に持っているファイルがかすかに揺れている。よく見ないとわからない‥でもそれを第1TOP様が見つけた。ツィッター主査が私の背中を押した。アーノルド少佐達も私に目線でうなづいた。
私はクゥ中佐の胸の中で、子供みたいに泣きじゃくった。また涙が止まらない。クゥ中佐は私の頭に軽く手を置いて言った。その手は震えていたと‥私は後年、アーノルド少佐から聞いた。
「‥ほ‥ホント目が溶けるぞ。いい加減に泣き止めよ。君がこの部に入隊して‥いや訓練生時代からだ。君が見せるモンスターパワーも君の精神力にも脱帽したよ。俺も嬉しかった‥検挙率が4年連続で。覚えてるか?検挙率が1位になった時に、前大佐が俺達全員連れて、ホテルのバイキングに行ったろ。カッジュはそこで思いっきりスィーツ食べて、みんなを驚かせただろう?食べている時のあの幸せそうな顔‥また頬にホイップ一杯つけてさ。モンスターパワーのカッジュとあまりにもギャップがあってさ。それから色んな事があった‥その4年間は俺は忘れない。カッジュをエージェントとして育てたが、俺達も君にまた育ててもらったと思っている。ありがとうございました‥クラウス・デ・ウィル・ボンバードと諜報1班部員全員‥」
先輩達は声を揃えて私に向かって敬礼をしてくれた。
「ありがとうございました!カッジュ下士官3等‥新部署でも頑張って下さい」
またクゥ中佐・アーノルド少佐 第1TOP様・第2TOP様も‥ミラド先生も同じように敬礼をした。
「ありがとうございました!カッジュ下士官‥新部署でも奨励奮闘致します!」
私は震える手で敬礼を返した。
私があまりにも泣いたので、ミラド先生が剣流会のオフィスまで送る事になった。部の先輩達は私にこう言った。
「カッジュが悪い!カッジュが俺達を泣かせたから‥」
「目が赤くなっちまった。人前に出れねぇ」
「だから‥ミラド先生に送ってもらえ!クゥ中佐達は泣きすぎて頭がイタイって言ってるぞ。さっき5人で頭痛薬飲んでたぞ」
「後でクゥ中佐にワビ入れろよ」
私はまた目をこすりながら、何回もうなづいた。
「こらぁ!カッジュをこれ以上泣かすな。俺がクゥ中佐に後で怒られるんだぞ」
ミラド先生が言った時に、隣室のドアが一斉に開いた。そして、ジョン中佐・ダフリン中佐が出てきて、続々と隊員が出てきた。
「どうしたんだ?ジョン中佐達」
「おぉ‥ミラド軍医!俺達もね‥カッジュ下士官に助けてもらった事があるんだ。俺もクゥ中佐同様だ!諜報2班・3班でもカッジュ下士官を見送りたいんだ」
その言葉に、2班・3班隊員が横一列に並んだ。そして、ジョン・ダフリン中佐が私の前に来て敬礼をした。
「カッジュ下士官!今までありがとうございました。君のモンスターパワーには心から敬服致します!これからも新部署で頑張って下さい。諜報全班!君の今後のご活躍を祈っております。カッジュ下士官に最敬礼ッ!」
ジョン中佐・ダフリン中佐と諜報2班・3班隊全員が私に最敬礼をしてくれた。私の目から涙が溢れたが、私は拳を握って軽く息を吐いた。
「ありがとうございました。カッジュ下士官!頑張ります‥ジョン中佐・ダフリン中佐!第2班・第3班隊員の皆様‥お見送りありがとうございました」
私は踵を鳴らして、ジョン中佐達に敬礼を返した。部室からクゥ中佐達・先輩達も出てきて、私は全3班の隊員達に敬礼姿で見送られて‥4年間いた諜報班フロアーを後にした。
ミラド先生が私の額にクールシートを貼った。
「目も顔も真っ赤だよ。泣き過ぎて体中の水分無くなったんじゃないのか?カッジュさんよぉ‥点滴するか?」
私は剣流会のソファで横になっていた。剣流会のドアを入った途端‥そのまま中村先生の胸にダイブしたのだ。そこから意識がなくなった‥
「私の胸にダイブして来た時は驚きましたよ。何事かと思いましたが」
作品名:HAPPY BLUE SKY カッジュの卒業 作家名:楓 美風