HAPPY BLUE SKY
これが実習?
初日は、デスクワーカーのトムさんの手伝いをした。2日目は部室の掃除をした。3日目は資料室で付箋の貼った資料を延々とコピーをしてファイリングをした。膨大な資料の量に愕然としたが「命令」は拒否することができない。例え訓練生であっても、拒否したら「軍法会議」レベルではないが即日「研修」が終わることだろう。私達訓練生は、実習に入る前に訓練校の教官からこう言われた。
「例え不本意の命令であっても、訓練生であっても拒否することはできない。それを肝に銘じておけ」
私は訓練校の教官が言った言葉が、今身を持って感じている。こぶしを振るわせようものなら、また部員達から突き刺さる視線が飛んでくる。ここは我慢比べだ‥負けるものか。
とにかく、少佐と部員達が出す命令を私は片っ端から片づけていった。最初の1週間は雑用ばかりだったが。2週間目に入った頃から少しずつ部員達の態度が変わってきたのを私は感じていた。最下っ端の部員・ツエットさんが給湯室にいた私に声をかけてきたのだ。
「おまえ‥ニックネーム何?」
私は目を見開いた‥それぐらい驚いたのだ。この1週間と2日‥ロクに口も利いてもらえず、挨拶をしても無視されていたから。ツエットさんは驚いている私を見てこう言った。
「俺も訓練生の頃は、行った実習先で同じ目にあったんだ。俺と一緒に実習に入った訓練生は辞めちゃったけどな。俺‥ここの部室の元訓練生で正式配属になって1年目なんだ。訓練生と対して扱いは変わらない」
ちょっとだけ‥私に笑いかけてくれたツエットさんだった。
「私のニックネームは、名前がKazumiだから【KAJJU】とか【かっずみぃ】って呼ばれています」
私もちょっとだけ口元スマイルをした。その日から少しずつだけど、ツエットさんとツエットさんの1年先輩のヨルさんとも話をするようになった私だった。
私はこの二人と、ファイン支部(私の実習先)のカフェテリアでランチを取っていた。
「エェ‥本当なんですか?今の話」
私は二人に聞き返した。二人はランチを食べながらうなづいた。
またツエットさんとヨルさんが言った。
「少佐‥おまえの経歴書・職務歴見てたぞ。この1週間毎日のようにさ」
「おまえ‥元ポリスって言ってたけど。どこにいたの?何かライセンスあるわけ?」
私は指で額を掻きながら(私のクセだ‥言葉を探している時のクセだ)
「少年課勤務でした‥日本の武道をやってるのでライセンスは持ってますが。それですか?少佐が興味持っているの」二人は同時にうなづいた。
私は二人と別れて、アーノルド指導教育係の「お使い」に出た。支部の近くのDIYショップに買い物に出ていた。買い物を終えて支部に戻る時だった。私の後方から声が聞こえたのだ。明らかに私の名前を呼んでいる。聞こえた声は少佐の声だった。少佐の声は一度聞いたら忘れられない声をしている。聞こえた言葉は‥
「訓練生ッ!命令だ!ソイツ捕獲しろ」
少佐の3メートル程先に、チンピラ風の若い男が走っていた。また少佐の声が聞こえた。
「おまえのライセンスでその男捕まえろ!捕まえたら俺の前に連れて来い!」
声を張り上げた少佐だった。
チンピラ風の男は、私が女の訓練生だと言う事がわかって、反対に私を盾に取ろうと思ったらしい。私は男の腕が自分の腕にかかる前に‥男の腕を引っ張った。
「セイィ!!」私は掛け声と共に、男を床に投げ飛ばした。
作品名:HAPPY BLUE SKY 作家名:楓 美風