HAPPY BLUE SKY
配属先の決定 その3
「はい!カッジュ訓練生であります。コーヒーですか?少佐」
カッジュの声が返ってきたので、俺はカーテンを開けた。
カッジュは自分で持ってきたのか、エプロンをつけてキッチンのシンクに溜まっていた食器を洗っていた。エプロンのポケットに挟んであったミニタオルで手を拭き、コンロに火を点けた。
「少佐はブラックでしたね。今お入れしますね」
「あぁ‥うん」俺はこれしか返事ができなかった。
カッジュは手慣れているのか、コーヒーの淹れ方も本格的だった。トムはコーヒーメーカーを使っていたが、カッジュは自分でドリップしていた。俺はドリップしたコーヒーの匂いに思わず鼻を動かしていた。
「ドリップした時の匂いが良いんですよね。コーヒーって」
カッジュはまた口元だけ笑って、丁寧にコーヒーをドリップした。
いつもなら、トムがデスクに持って来てからコーヒーを飲む俺だが、今日はその場でカップに口をつけた。それぐらいカッジュがドリップしたコーヒーが美味かった。
少佐がキッチンから出て行って、私はしばらく【放心状態】だった。少佐は何の前触れもなしにまた‥ダイレクトに私に言ったのだ。
「おまえ第1志望の配属先どこだ?もうボング教官と面談済んだのか?」
私は予期せぬ少佐の言葉にカタまってしまった。また口も上手く開かない状態だった。少佐はそんな私の姿を見て、またこう言った。
「俺はおまえが最初にこの部室に来た時は3日で辞めると思ってた。男ばかりの部でどれだけ耐えれるか、辞めたら訓練校にネジ込んでやろうって思っていた。でも、おまえは俺の予想外の働きだった。カッジュ‥もし第1志望が決まってなかったら、うちの部に来ないか。俺もアーノルド指導教育係・ビリー副指導教育係も他のTOP2名もおまえの実力は認めている。後1週間時間がある‥よく考えてくれ」
少佐が私を認めてくれてる?だから‥言ってくれたのだろうか?キッチンでの少佐の言葉がまだ信じられなくて、訓練校の寮に帰ってからも何度も自分の頭の中で少佐の言葉を思い出していた私だった。また少佐はこの日に、訓練校のフォン部長先生にも電話を入れてくれたようだ。寮に帰るなり、私はまた訓練校の教官室に行ったのだから。
私はフォン部長先生・ボング教官と話をした。そして【配属先希望】用紙に【NATOC・ファイン支部 第1班諜報部】を記入した。もう第2,3希望は記入の必要がない。ファイン支部 第1班諜報部 部長と中佐・少佐の3人の採用の正式要請があったから。私は書類にサインした後は夢見心地だった。実習に入る前から少佐に脅かされ、最初の2週間は部員からの無視され、膨大な雑用をし耐えた。耐えなければ、自分がこの先何に対しても自信がなくなり、何もできなくなると思ったからだ。
私はその晩嬉しくて眠れなかった。大袈裟かもしれないが初めて自分が認められた気がしたのだ。日本に居た頃は【親の七光り】で、どんなに努力しても認められずに、また少しでもミスをしたら周囲から【冷たい視線】を浴びせられたのだ。でもここはN国・NATOC軍だ。私を知っている人物はいない!私は自分の力で【採用】を勝ち取ったのだ。その事がとても嬉しかった私だ。
翌日、私は【配属先決定】になり訓練校校長のサイン入り書類を手に持って、NATOC ファイン支部に出社した。そして少佐のデスクに行き敬礼をした。
「おはようございます!少佐」まずは朝のご挨拶だ。
「おはよう!元気だな‥おまえ」あの口元スマイルをして私に笑ったのだ。
いつもなら、この少佐の口元スマイルが出たら部員達は顔を引きつらせているが、今日は違ったみたいだ。私の後ろで成り行きを見守っていた。
作品名:HAPPY BLUE SKY 作家名:楓 美風