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[王子目線]残念王子

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僕は彼女が担いだ荷物を取ると、リンちゃんにぶら下げる。

「リンちゃん、悪いけどよろしくね。」

するとリンちゃんは、軽くいなないて答えてくれる。

彼女はリンちゃんを撫でると、ふわりと微笑んだ。

「ありがとう。」

そしてその微笑みを、僕にも向ける。

「この間のお礼も、今日のお礼も言ってなかったわ。…いつもありがとう。」

そのあたたかい微笑みが、僕の胸をあたたかくし、優しく包み込んでくれる気がした。

「暗くなる前に、帰ろう。」

僕は左手にリンちゃん、右手に彼女の手を引きながら歩き出した。

「あ、そういえば。」

僕は今日の本当の目的を、思い出した。

「明日の夜、城で開かれる舞踏会には参加するの?」

僕が訊ねると、彼女はとたんに悲しげな表情にかわる。

「お姉さま達は行くみたいだけど、私はドレスも馬車も持っていないし…。」

(ドレスと馬車…。)

「そうか…。でも、大丈夫だよ。」

「え?」

僕の言葉に、彼女が僕を見上げる。

「とりあえず、お姉様方が出発されたらお風呂にでも入っていたら?」

彼女はきょとんとしたまま、ぼくを見上げた。

その彼女を、僕は腕をひいて胸に抱きしめた。

(なるほど、このくらいか。)

「はい、これ。」

その感触を忘れないうちに帰ろうと、僕は彼女の屋敷が見えたところで彼女の荷物を手渡す。

驚いたまま固まっている彼女の前で、僕はリンちゃんに跳び乗った。

「じゃ、また!」

そしてそのまま城まで一目散に戻った。


城門前では、いつも通りマルが仁王立ちしている。

僕はそのマルをスピードをゆるめないまま馬上に抱き上げると、城の入り口まで駆け抜けた。

「王子!?」

突然のことに驚きながらも、さすがにマルは忍だけあってすぐにリンちゃんに自力でまたがる。

「リンちゃんをよろしく!」

城の入り口にいた騎士に頼むと、マルを抱いたまま飛び降りて城の中へ急いで入る。

マルは僕の腕から飛び降りると、一瞬で姿が消えた。

「すぐに、仕立て専門の女官を呼んできます。」

声だけがどこからかして、僕はふっとため息をもらした。

「だから、おまえはどこで僕をいつも見守ってるんだ?」

そして自室へ戻ると、既に女官とマルがいて、ドレスもいくつか用意されていた。

「これは亡き王妃様が一度も袖を通されなかったドレスでございます。これを今風にリメイクして、サイズも合わせていきたいと思います。」

女官の言葉に僕は頷きながら、マネキンが着ている色とりどりのドレスを眺めた。

彼女のプラチナブロンドと白い肌、碧い大きな瞳を思いだしながら、どれが似合いそうか考える。

「実は彼女、王子から貰ったマントで、自分でドレスを作っていますよ。」

マルの言葉に、僕は目を見開いた。

「すごいな。」

マルは頷くと、更に言葉を続ける。

「ですが装飾もなく、シンプルなので羽織ものでもいいかと思います。」

(なるほど。)

「とりあえず、それならばこの青いドレスをサブで仕立て直し、羽織ものも作っておこう。どちらを着てもいいように。」

僕の言葉に、マルが笑顔もなく頷いて、女官に指示をだし始めた。

「母上は、小柄な方だったのだな。」

僕はドレスを着たマネキンのひとつを抱きしめながら呟いた。

「爺やさんの話では、私と同じくらいの体格だったそうです。」

その言葉に、僕はマルとマネキンを交互に見比べた。

「そうなのか…。」

考え込む僕に、女官が声をかけてくる。

「その作られる方は、どのくらいのサイズで?」

「…ああ、そうか。そうだよな。マルサイズなら、ドレスが小さいことになってしまう。」

僕がさっき確かめた3サイズを紙に書いて女官に渡すと、マルが冷ややかな瞳で僕を斜めに見上げた。

「さすが、色んな浮き名をお流しになっているだけあって、抱きしめただけで3サイズがわかるんですね。」

そんなマルに、僕はイタズラ心が出て、ニヤリと笑ってみせる。

「それも才能だろ?…ちなみにマルの3サイズもさっきのでわかったよ。」

僕の言葉に、マルが余裕の笑顔を浮かべた。

(あれ?照れるかと思ったのに…。)

「それは、残念ですね。」

不適な笑顔でマルが腕を組む。

「残念?」

戸惑って僕が訊ねると、マルは女官の手伝いをしながら答える。

「そ、残念ですね。私は忍ですので。」

(???)

意味がわからずキョトンとしている僕をマルは見上げると、背中を押して部屋から追い出そうとする。

「作業の邪魔です。お食事は広間に用意してますので、そちらへどうぞ。」

そして廊下へ僕を追い出したところで、扉を閉めてしまった。

「え?」

(ここ、僕の自室だよね?)

鍵が掛けられる音を聞いて、僕は呆然とする。

しばらく部屋の前で佇んでいたけれど、盛大な腹の虫の音に我に返った。

仕方ないので、僕は広間へと移動すると、久しぶりに父上がそこにいた。

「久しぶりだな。」

父上が笑顔で迎えてくれる。

僕はすっかり嬉しくなって、父上の斜め前に座る。

「明日の舞踏会には、いらっしゃるのですか?」

僕が笑顔で訊ねると、父上は優しい微笑みで答えてくれた。

「お前がどんな娘を選ぶのか、楽しみにしておるぞ。」

(側室候補か…。)

色んな女性と関わってきたけれど、なぜか気持ちを固めきれない僕は、そんな心の迷いから目をそらし、とりあえず久しぶりの父上との食卓を楽しんだ。
作品名:[王子目線]残念王子 作家名:しずか