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ゴースト・ワイフ

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私は心から祈った。
「お願い‥ペンを持たせて。ノートに文字を書かせて」
キッチンカウンターの上にあるペンに一生懸命祈り手を伸ばしたが‥手はペンをすり抜けてしまった。何度もチャレンジしたがダメだった。
「何にもデキないなら‥そばに居ても意味ないじゃない。何で私をとどめて置くの。神様は私に何をしろっていうの?何にも出来ないのにツライだけじゃない」

その時だった‥私の後ろで男の声が聴こえた。振り向こうとしたが‥
「振り向くでない。私は大天使様からの命で地上に舞い降りてきた者だ‥人間は死んでからすぐに天国に召されるのではない。おまえが天国に召されるまでに‥」
男は私の背中に向かって話し出した。

‥‥私はまた上から眠る智と子供達を見ていた。
「私がしなければイケナイことって何?何を触っても手がすり抜けてしまうのに、声を出しても聴こえないのよ。何がデキるって言うのよ」
私は智の顔に自分の顔を近づけた。そして子供達の顔にも自分の顔を近づけた。
3人の寝息が聴こえる‥いつもこの隣で私も眠っていたのに。この3人を置いて行きたくない。私は大天使様のお使いの男の言葉を思い出した。

「よく聞きなさい‥突然死んでしまったのだから、貴女が戸惑う気持ちもよくわかる。また残された家族の哀しい気持ちもよくわかる。残された家族は哀しくとも、これから生きて行かねばならぬ。その家族の為に貴女ができることはきっとあるはずだ。今から10日間の猶予を与える‥その10日間の間に見つけよ。10日間の内に5回だけ力を貸してやる。力の必要な時は唱えるがよい」

「10日間で5回って事は2日に1回使えるってことね。5回しか使えないから‥よく考えなくっちゃね。アナタ達の為に‥そして私の為にも」
私は寝ている智達の顔をもう一度見て、寝室を出て行った。
作品名:ゴースト・ワイフ 作家名:楓 美風